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ホラクラシー経営を実践する人事部がない会社のHRTech活用事例

年功序列で封建的なピラミッド型の「ヒエラルキー」に対し、肩書きや序列をなくし、意思決定を分散化させるという「ホラクラシー」という概念。
管理しない経営として注目を集める「ホラクラシー経営」を実践している会社として有名な「ダイヤモンドメディア」。同社では、いつ出社してどこで働くかは、すべて社員に委ねられていてなんのルールも制限もない。
普通の会社にある「人事部」もなく、勤怠管理もない。採用は事業部ごとに行い、人事部の機能は解散する前提の「プロジェクト」が担っている。
今回は、ダイヤモンドメディア株式会社の関戸翔太さん、田中慎生さん、篠崎礼さんにホラクラシー経営や組織を保つための工夫についてお話しいただきました。

―まず、担当されている業務について教えてください。

(篠崎さん)
私は、まだ入社して3か月ですが、採用の窓口や労務管理を担当しています。

(関戸さん)
私は9年目で、ダイヤモンドテールという事業のディレクターを担当しています。今は、採用業務、HR関連のプロジェクトにも積極的に参加しています。

(田中さん)
僕はOwnerBoxというサービスを担当しています。普段はエンジニアとしてサービス開発に携わっていますが、採用業務も担当しています。

―ちなみに人事部は無いんですか?

(全員) ないですね。ただ、週1回の定例会議でHR関係の話をする場を設けています。

―担当がきまっているのではなく、その会議の場に人事機能があるんですね。

(関戸さん)
はい。定例会議の場に加えて、slackでHR関係のチャンネルを作り、採用関係の進捗を確認したりタイムリーに疑問を解決できるようにしたり、頻繁にコミュニケーションをとる環境がありますね。

―肩書きも序列もない「ホラクラシー経営」が特徴的だと思うのですが、入社して3か月の篠崎さんは、前職とのギャップを感じることはありますか?

(篠崎さん)
ギャップというか…単純に違うのは時間・仕事管理を自分自身に任せてもらえる点です。仕事を円滑に回すという意味でも、自分ができることを積極的に発信する、さりげない自己アピールスキルが必要で、それも違うところですね。

(田中さん)
何ができるかわからない人には仕事を依頼しにくいから、お互いキャラや得意分野が分かっていた方がやりやすいよね。そういう意味でも、自己アピールスキルは重要。

(関戸さん)
僕が入社した9年前はホラクラシーなんて言葉はまだなくて、「人間性経営」という言葉で経営方針を考えていました。この会社は創業当初から経営・給料に関して“オープン”“フラット”がキーワードでした。サービスの内容が変わったり、事業が伸び悩む時期があっても、ヒエラルキー型になったり、情報をクローズドにすることなく、ホラクラシーが継続できているのが素晴らしいなと思っています。

―特殊な経営スタイルに戸惑ったり、躊躇したりしませんでしたか?

(田中さん)
入社前は社内制度に結構身構えていましたけど、入ってみたら普通に開発の仕事をしてお客さんとやり取りしていたので、あまり違和感はありませんでした。ただ、まだ模索中なのが人事評価と給与の決め方です。会社としても常に試行錯誤しながらやっている最中なんですよね。

―評価の基準は、どうやって決めているのですか?

(田中さん)
そもそも「他人の評価をする」という文化自体がこの会社には無いんです。しかしそれだと給与などが決められないので、「相場」という言葉を使って、社会との相場・会社の相場を考えてその人の実力を数字に置き換えています。
基準は明確には決めていません。決めてしまうと、基準・責任の所在が人に依存することになってしまうので、その都度会社内で話し合っています。話し合いは、半年に一度行われます。

(関戸さん)
その話し合いの時には一定のガイドラインを引いていて、事前に「評価に考慮しないこと」をいくつか決めています。歩合制の給料ではないので、営業の歩合・期待値は給料には反映されません。
また、ポジションによって給料を変えないことにしています。原則として「職業人としての実力」としてできるだけ客観的に数値化するようにしています。

(田中さん)
話し合いに加えて、最近ではアンケートも事前に取るようにしています。話し合いでは面と向かって人の仕事に口出しするのは躊躇する人もいるので、匿名で。
ただ、「アンケート疲れ」もトピックとして出ているので、今後検討していく可能性も高いです。

(篠崎さん)
結構な量になるんですよね(笑)

―アンケートはどのくらいの頻度でやられているのですか?

(関戸さん)
3ヶ月おきですね。給与の見直しは6ヶ月ごとに行われますが、それだと間が開きすぎるということで、フィードバックを兼ねたアンケートを3ヶ月に一度実施しています。

(田中さん)
そうそう、アンケートでは、個人に対するフィードバックも一緒に書こうという意識でやっています。良いこと・改善点を両方フィードバックすることで、振り返りの機会にもなると期待しています。

―人事部は存在せず、「プロジェクト」を立ち上げて人事機能を担っていると伺いましたが、どういうことでしょうか。

(田中さん)
役割をあらかじめ固定したり、トップダウンで決定したりするのではなく、日々の業務や社内の毎日のやり取りの中で見つけた課題を、「プロジェクトベース」で改善し続けようという試みをしています。
HRプロジェクトもその一環です。私たち3人のプロジェクトでは人事業務の効率化をはじめ、入社の段階におけるミスマッチ解消や採用ブランディングの強化など、いわゆる「エントリーマネジメント」の課題を解決しようとしています。

―入社段階でのミスマッチ解消は重要ですね。ホラクラシーは、一定以上のアウトプットを出せる自信のある方々にとっては魅力的な組織体制のように思えます。ただ、入社前の候補者側の期待と入社後の現実に差異があるようであれば、早い段階での摺り合わせも必要ですよね。

(関戸さん)
そうですね。3・4年前はホラクラシーという新しい制度に惹きつけられて集まってくる人たちもたくさんいました。でもそれだけだとやっぱり続かなくて、「指示が無いから仕事ができない」とか「思ったより自由じゃない」と言ってやめていく人も多かったんです。
ただやはり、今社内で活躍しているメンバーの顔ぶれを見ると、どちらかというとフリーランス気質の人の方が早く馴染んで結果も出しているように見えますね。入社当初は、会社やチームに馴染んでもらうために社内のメンバーがある程度お膳立てをしますが、僕らも指示出しが得意ではないですし、レールを引くのに飽きてくるんです。やっぱり自走してくれないとね。(笑)

―新しく入ったメンバーはどのように自走していくんですか。

(関戸さん)
篠崎さんは自走してますね(笑)

(篠崎さん)
入ったポジションがふわっとしていたので、自然と自走できましたよ。

(関戸さん)
実際に、篠崎さんは入社後すぐに採用の現場でかなりポテンシャルを発揮してくれました。採用広報をはじめ、候補者の方とのやり取りや募集管理まで総合的に引き受けてくれて、今までみんなが片手間でやっていたことを丁寧に拾ってくれた。これは採用活動全般においてすごく価値があったと思います。社内にメンター・先人が居ない状況だったので、より難しいポジションだったと思いますが。

(篠崎さん)
会社のみんなが助けてくれたので、一人ひとりがメンターみたいな感じで。意外とやりやすかったですよ。

(田中さん)
わからないことがあれば、チャットグループでつぶやいてみんなが反応し、業務を進めていくというカタチができたよね。

ーメンバーが自走していくために、教育のようなことはしているんでしょうか。

(関戸さん)
基本的には自分でどんどん情報を集めて進めてもらう感じです。チャットで進捗状況を報告してもらったりして、それに誰かが反応する形で業務が進んでいきます。
教育というレベルまで到達しているかは難しいですが、「朝トレ」という時間を週に2回設定しています。元々は個人のナレッジを他の人に共有する場として始まったのですが、現在は入社してすぐの新メンバーがダイヤモンドメディアに対する理解を深める、という点でも活用できていると思います。

「朝トレ」では、各サービスの説明などだけでなく、社内におけるコミュニケーションの効果的な取り方、マーケティングやディレクションの基礎知識、ダイヤモンドメディアの成り立ちなどを持ち回りで話していきます。
アジェンダやスライドはesa.ioを活用した社内Wikiにアップをして全体に公開しています。

ー様々なツールを活用しているんですね。

(田中さん)
ホラクラシー経営を支えるもっとも重要な要素は「情報の透明性」であり、社内の全てのメンバーが同じように情報にアクセスできることだというのが私たちの考え方です。ですから、メンバーがリモートワークかどうかに限らず、基本的にはツールがクラウドベースであることを重要視しています。それから、情報の更新とコミュニケーションが一緒にできることも大切ですね。

ー人事業務でつかっているツールについて教えてください!

(田中さん)
各サービスを連携して使っています。Wantedlyで求人を出し、Talentioで採用管理をおこなう。内定まで行くと、SmartHRに入って労務管理ができているという感じですね。外国籍のメンバーの場合はその後にone visaでビザ申請というフローが完結しています。
ただ、タレントマネジメント、人事評価については弊社のようなホラクラシー型の組織にあったものがないですね。

ー既存のツールのどのような点がマッチしないのですか?

(田中さん)
タレントマネジメントや人事評価のシステムって「管理者」だけが閲覧できるようにオープンにするところとクローズドにするところがあるのですが、弊社の場合は全部オープンなのでそのような機能って必要ないんです。そのほかにも管理をする前提で用意されている機能っていうのが余分ですね。あとは、絶えず評価などは試行錯誤していることもあって難しい部分もあるかもしれませんね。

―では、最後に会社はみなさんにとってどんな場所ですか?

(田中さん)
前の職場は、8時から17時まで仕事に行く、みたいな感覚だったけど、ダイヤモンドメディアに来てから、就労時間が変わっても給料が変わらないので、「自分がどう働いていくか」という考えにシフトしました。生活と仕事の境目がなくなって、QOLが上がりました。

(篠崎さん)
前職の時は土日に向かって働いていたんです。企業側に設定されたスケジュールの中でオンの日とオフの日を使い分けていました。でも今は、休むとか働くとかいう感覚がない。良い意味でオンとオフが混ざっています。ここは第二の家族っていう空間ですね。

(関戸さん)
会社は、自己実現を仲間と一緒にやる場ですね。

(篠崎さん)
関戸さんは、他の社員よりもこの会社への愛や思入れは特に違うんじゃないですか?

(関戸さん)
会社が10年間バランスを崩さず継続できているのが嬉しいです。こんな会社他に知らないです。これからもフラットにやっていきたいので、このスタンスを続けていきます。僕は、週末、ダンサーとして活動しているので、周りの理解がないとできないんです。休みも取りたいときに取れて、くだらない嫉妬でやりたいことを諦める必要が無いので、可能性が広がるんですよね。

―会社の都合で個人の生活を制約することがない、懐が広い会社ですね。
今回は、ホラクラシー経営や組織体制を保つための工夫についてお話しいただき、ありがとうございました!