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あのUBERが利用しているHR Techサービス「Vervoe」のグロース方法

全世界で140億ドル規模のHR Tech市場は、今後もアメリカを中心に年々拡大を続けていくと予測される。
【関連】海外HR Tech市場規模と注目サービスまとめ

シリコンバレーの企業を中心に大規模な資金調達のニュースが注目されがちであるが、アメリカ以外の国でもHR Techはこれまで人間の力だけに頼っていた人事の「悪しき慣習」を打ち破り、生産性を飛躍的に高めるテクノロジーとして関心が高まっている。

今回取り上げるのは、オーストラリアのスタートアップ企業である「Vervoe」。同社は、2016年に創業してから1年半のうちに2回の資金調達を成功させ、海外市場に打って出ている注目企業だ。

ところで、オーストラリアのHR Tech市場規模は、日本と同じように取り立てて目立つレベルではないものの、まずは、主にオーストラリア国内での資金調達を成功させ、それからアメリカ等の海外へ攻勢をかける企業が少しずつ出始めている点で、日本のHR Techを手掛ける企業や潜在的な起業家にとって大いに参考になる事例かもしれない。

また、オーストラリアの首都シドニーでは、2015年にHR Techメインの国際カンファレンスが開かれてから毎年継続しており、HR Techを推進しようとする勢力が少なからぬエネルギーを注いでいる様子がうかがえる。
【参考】HR Tech Summit 2018(今年9月開催)

40日かかる採用プロセスを、たった4日で実現する

今回ご紹介するVervoe(ヴァーヴォ)は、一般的な採用手法に代わってオンライン採用プロセスを提供している企業で、2人の創業者を中心に事業が始められた。提供サービス名も、企業名と同じ”Vervoe”である。

同社の企業サイトでは、ミッションが次のように語られている。
“At Vervoe, our mission is to fundamentally transform the hiring process from mediocracy to meritocracy.”
(Vervoeのミッションは、採用プロセスを凡人のやり方から秀才のやり方に根本的に変えることだ。)

さらに続けて、”OUR STORY”ではこう語られている。
「みんなが採用というものは苦痛に満ちたものであるとわかっていながら、誰も正しいやり方で問題解決をしてこなかった。それがVervoeが創られた理由だ」。

Vervoeの創業者は、「Vervoeを使えば、求める人物を4日で採用できる。40日ではない」と訴える。
※ちなみに、Vervoeの意味は調べた限りでは明記されていなかったが、オランダ語の”vervoer”(別の時代・場所へ運ぶ、の意)に由来しているのではないかと筆者は推測する。

短期間に資金調達に成功、そして世界展開へ

Vervoeに注目した理由の一つは、創業から資金調達までの成功スピードが速く、しかも着実にステップアップしている点だ。

同社は2016年12月に創業し、2017年8月には100万米ドルの資金調達を成功させ、それを皮切りに本格的にアメリカ市場へ展開を始めている。

さらに、今年5月には350万米ドルの資金調達に成功させ、急成長への足掛かりとなる経営基盤をしっかりと構築したと言える。

あのUberも利用するHR Techサービス “Vervoe”

では、そのような発展的成長を遂げているVervoeとはどのようなサービスなのだろうか?

Vervoeは、これまでの「フェイス・トゥ・フェイス」の面接に頼る、時代遅れの採用手法に代わって、迅速かつ効率的なオンライン採用プロセスを導入することにより、企業の採用にかかる時間を短縮し、かつ、有効な採用手法を実現していると言う。

日本では採用面接にAIを活用するケースが徐々に増えているが、Vervoeはあくまでも「人の介在」をベースにしている。ただし、その「人が手掛ける採用プロセス」を圧倒的に効率化する仕組みを提供する。

具体的には、企業側がある求人枠に対する人材採用しようとする際に、その求職者の実際のスキルレベルや業務パフォーマンスをオンライン上で把握し、早期にマッチングの精度を高め、採用プロセスを効率的に進捗させるシステムを使うことが出来るというものだ。

求職者側も、Vervoeを利用することで、自己が有するスキルと企業が求めるレベルがマッチングしているか早い段階で明らかになり、転職活動に時間をかけずに「企業とのお見合い」を次々に試すことができる。

Vervoeの提供するサービスは3,000社以上がこれまでに利用しており、オーストラリア国内の大手企業だけではなく、Uberなど日本でも知名度が高い企業が利用した実績がある。

Vervoeの主な特徴

そのような実績を誇るVervoeの特徴とは何だろうか?

日本ではまだまだ採用において、「面接重視」の慣行が成されているのは確固たる事実であると思う。そもそも、AIに人間の代わりに面接をさせることによって、面接官では評価不可能な部分を客観的に行おうとする発想そのものが、「面接で人を判断すること」からは離れないと宣言しているようなものだ。

しかし、新卒採用でも中途採用でも、「ミスマッチ」は常に起きる。いくらAIが「面接内容」や「求職者の表情・リアクション」を評価したとしても、そもそもその人は「仕事が出来るのか、出来ないのか」は評価できない。たとえコミュニケーション力が多少あり、性格的に問題がなかったとしても、成果をあげられなければ意味はない。

もちろん、面接を否定しているわけではない。欧米では「複数の選考手法」を組み合わせて、求職者を評価・判断することが、日本よりも一般的ではないかと思う。例えば、面接では確認できないスキルや資質の部分について、客観的な評価ができるアセスメントツールを利用したり、OJTの機会が設けられたりして、その求職者が実際に取り組む業務に合うかどうかを判断する。

Veroveは、前述のように人が介在した形で、求人内容に合わせた質問事項やOJTシミュレーション等のアセスメント(評価)ツールを利用する。そして、そのアセスメントツールは、Verove社が開発した豊富なライブラリーの中から、求人内容に合わせてコンテンツを選び、選考に利用できる、というものだ。

(求人内容に合わせた質問やスキルテストが準備されている。必要に応じて、自作することも可能。)

ライブラリーのコンテンツは、採用のプロフェッショナルである専門家や、テスラ等の一流企業から情報資源を得て、独自に開発したものであるという。アセスメントには、タスクに合わせた様々な種類が選べる。

さらに、採用担当者側でも、求職者側でも、分かりやすいインターフェースを提供しており、採用・応募それぞれにかかる作業的な部分を効率化している。採用決定までに「40日ではなく4日」というスピード重視の価値観を反映したものと言えるだろう。

(最終選考者はface-to-faceの面談に移る。方法は、テレビ電話か、録画ビデオなどの方法が選べる)

今後、日本にも同種のサービスが開発されるかもしれないし、あるいは、言語の壁を超えてVervoeが何らかの形で日本にやって来る方が早いかもしれない。

サービスをどうグロース(成長)させたのか

Veroveは、どのようにサービスを成長させて来たのだろうか?

Vervoeは創業翌年に100万米ドルの資金調達させた後、2回目の資金調達(350万米ドル)では、オーストラリアのグローバル採用サイト運営最大手企業である「SEEK(シーク)」から200万米ドル分を確保した(残りは著名な個人投資家から調達)。

Vervoeは、「採用プロセスの効率化による、採用にかかる時間の短縮化」という、ありそうでなかった採用市場における高いニーズを、レベルの高いコンテンツ開発力によって確実につかみ、採用市場の大手の後押しを得ることで認知度、信頼度を飛躍的に向上させた。これにより様々なメディアにニュースとして取り上げられることで、サービスを知らない人でも、その名前を検索した際に印象は良くなるだろう。

また、サービスの価格設定も、最安プランが99ドル/月(1求人のみ)と、中小企業やスタートアップ企業でも利用しやすい金額にしており、「敷居の低さ」を感じさせる。

さらに、「14日間無料」のテスト期間を設けることで、実際に採用がスピードを持って進むのかどうか十分に体験でき、価値を感じることができる機会が提供されている。もし、期待どおりでなかったら利用を止めれば良いし、サービスに満足して求人枠を増やしたとしても、手ごろな価格で、ストレスの多い採用業務にかける時間を減らすことができれば、企業にとってのメリットは計り知れない。

数年で3,000社を超える企業の導入実績があり、オーストラリアやニュージーランドで家電・モバイル・保険・オンラインショップ等の事業を展開する上場企業のKoganや、Uberなど著名な企業の利用実績もPRしていることも、導入を検討する企業にとっては前向きな評価につながる可能性が高い。

まとめ

Vervoeについてまとめると、ポイントとして次の5点が言えると考えられる。

1.技術力や開発力を背景に、創業から早い段階で資金調達を成功させ、認知度・信頼度を向上させた
2.採用にまつわる問題は、ほぼ全世界共通。チャンスをつかみ、世界展開に挑戦
3.Uberなどの知名度が高い企業との取引実績が、サービスの信用度を高める可能性に
4.HR業界の大手企業から資金調達に成功する、業界内シナジーを実現
5.敷居の低さを感じさせる価格設定やトライアル提供

以上、一見するとVervoeはとりわけ派手ではないし、どちらかというと、地道な取り組みの積み重ねが短期間で功を奏したパターンのスタートアップ企業であると言える。

しかし、勝率が極めて低い資金調達のプレゼンチャンスに時間とエネルギーを費やしたり、飛躍した戦略を実現しようとする企業に比べて、ユーザーのニーズに着実に技術で応え、世界展開への経営戦略上の要点を着実につないで行った点で、Vervoeは、高い技術力を持つ日本のスタートアップ企業にとって格好のモデルとなるのではないだろうか。