昨今、社員エンゲージメントを向上させるために福利厚生に力を入れる企業が多くなって来た。
福利厚生といえば、日本では住宅補助や食堂・昼食補助などが多いのに対し、アメリカの代表的な福利厚生は健康保険である。
世論調査会社ギャラップの調査によると、アメリカの働く人々の3割が「福利厚生の充実は転職の理由になる」と回答している。
さらに、転職の理由になり得る内容について尋ねた結果、約61%の人々が「(より手厚い)健康保険を理由に転職する可能性がある」と答えた。と、Forbesで報じられている。
日本のような国が定める国民皆保険制度がないアメリカでは、勤務する会社や団体を通じて健康保険プランに加入することが一般的だ。
公的な保険制度はあるものの、低所得者や障害者、65歳以上の国民、米軍勤務者とその家族向けと対象は限られる。
企業にとって福利厚生として従業員全員を健康保険に加入させることは大きな負担になっているようだ。
statistaの調べによると、2015年には従業員1人当たりに対し1年間で約11,750ドル、2018年には12,872ドルの医療費がかかっている。
Leagueは、カナダ・トロントにて、2014年に創業した。2018年7月に、日本円で約52億円の大型の資金調達もしている注目の企業だ。
Leagueは、従業員の保険と健康を管理するサービスを提供していており、ヘルスケア系のスタートアップである、Spring Health社、Lyra Health社、Lumity社と違い、従業員の健康保険のブローカーとしての役割も担っている。
Leagueを導入した企業は、Leagueに対し月額利用料と管理手数料5%を支払い、サービスを提供する側は、支払いの2.5%を手数料としてLeagueに支払う仕組みだ。
時期 | ラウンド | 調達額 |
2014年11月12日 | シード | 400万ドル(約4.4億円) |
2016年6月14日 | シリーズA | 2500万ドル(約27.7億円) |
2018年7月24日 | シリーズB | 6200万カナダドル(約52.7億円) |
合計 | 約84.8億円 |
(資金調達歴)
同社の調べによると、1年間でかかる医療費の50%は、運動や体重管理などを行うことで抑えることができるという。
「League」を導入した企業の従業員は、企業を通じて健康保険に加入できることはもちろんのこと、健康管理に関するさまざまなプログラムを体験することができる。
企業の福利厚生として健康保険を提供しつつ、従業員一人当たりにかかる医療費を削減するために、健康管理に注目したのが特徴のサービスである。
「League」には、大きく3つの機能がある。
企業ごとに、健康保険の内容を予算に応じてカスタマイズすることができる。基本的には、医療機関の紹介や、歯や目に関する治療・手術などが保障されている。
オプションとしては、従業員やその家族が死亡や障害を持った場合に、一時的な給付を受けることができる生命保険や、従業員が病気や事故で負傷した場合に通常の給与の一部を給付する障害保険などがある。
オンライン上で5万人以上の医師や看護師と従業員を繋ぎ、何かあった場合にいつでもアドバイスをもらうことができるサービスや、専門家から24時間365日アドバイスを受けることができる「従業員援助プログラム(EPA)」などもある。
従業員は、事前に割り当てられた金額を元に、病院での診察といった”健康”に関する支払いと、フォットネスといった”ライフスタイル”に関する支払いをすることができる。
自分で支払いをした場合は、レシートの写真を撮影し、Leagueアプリを通じて払い戻し申請ができる。Leagueのアプリで予約したサービスは、レシートの写真を必要とせず、即座に払い戻しすることができる。
先述した通り、Leagueでは2種類の支出を管理しており、この2つの支出管理口座には、それぞれに予算が充てられる。
より健康的な生活を送るための製品やサービスに関する支出をまかなうものだ。対象としては、フィットネスやセミナー、通勤パスなどだ。
日常で起こる健康問題に関する支出をまかなうもの。対象としては、病院での診療や処方箋、視力関係、歯科関係などがある。
health@workプログラムでは、身体面・精神面・社会面・財政面の4つの分野のプログラムが提供されている。
これを導入することにより、従業員は、ヘルスケアに関するセミナーやグループで参加するヨガ、チームビルディングのためのワークショップを職場で体験できたり、オンラインでのストレスマネジメントやマインドフルネスに関するセミナーを受講することができる。
4つの分野のプログラムに関しては下記の通り。
・身体面
人間工学に基づいた評価やブートキャンプ、栄養教室など、体づくりに特化したプログラムが用意されている。
・精神面
ストレスを上手に処理する方法を身に着けることができる。
・社会面
チームの中を深めるために、アートセラピーや寿司づくり体験を行うことができる。これを行うことで、チーム内で交流を行うことができる。
・財政面
退職したときの税金についてや、初めて家を購入するときのお金関係について学ぶことができ、将来に備えることができる。
顧客にはUberやUnilever、shopifyなどの有名な企業も多い。現在、トロントとシアトルにある企業、約100社が登録をしている。
Leagueには、4つの特徴がある。
Leagueのデジタルウォレットでは、スマートフォンから簡単にウェルネスサービスの支払いや残高の確認などを行うことができる。
このように、従業員が手軽に操作できるため、全アクティブユーザーの約70%~90%が毎月Leagueのアプリを使用してサービスを受けている。
登録されている看護師とLeagueのアプリ上でチャットし、すぐにアドバイスを受けることができる。
健康に関する疑問を、オンライン上で看護師と直接やりとりすることによって、より素早く解決することができる。
ウェルネスとは、「身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして輝く人生、豊な人生(QOL)を志向している」とされている。
これまで福利厚生として、健康保険をサポートしたり、体験アクティビティを提供するものはあった。しかしLeagueではそれだけではなく、退職時の税金に関するセミナーや、チームの中を深めるワークショップなど、ウェルネスに関する総合的なプログラムを提供している点が特徴である。
さまざまな製品やサービスの提供企業と提携しているので、特別価格で購入できたり、無料トライアルを受けることができる。
これもスマートフォン上で情報を確認することができる。パートナーシップを結んでいる企業にはadidasや!ndigoなどが挙げられる。
Leagueの特徴は、「保険の管理」と「健康に関する支出の管理」「ウェルネスプログラムの提供」の3つを同時に提供している点である。
HR Techナビでも、以前「海外HR Tech(HRテック)業界のユニコーン(評価額10億ドル以上かつ非上場)企業の最新動向」で取り上げたZenefits社は、企業の健康保険に関する業務の効率化が特徴で、「2018年はウェルネスからウェルビーイングへ!エンゲージメント向上を実現する米企業「Virgin Pulse」」で取り上げた「Vigin Pulse」は、ウェルネスプログラムに特化している。
労働者の約61%の人々が「(より手厚い)健康保険を理由に転職する可能性がある」と答えるアメリカにおいて、福利厚生としての健康保険は、もちろん準備されていなければならない状況になりつつある。
また同時に、従業員の医療費を削減し、エンゲージメントを高めるためにも、ウェルネスプログラムの必要性も増して来ている。
日本では今のところ、社会保障として国民皆保険制度といった公的な健康保険が充実しており、Leagueのようなサービスのニーズは少ない。
しかし、高齢化が進むにつれて、税や保険料でまかなう医療・介護などの社会保障給付費が、過去最高を更新し続けている。
さらに、追い打ちをかけるように少子化が進むことで、税金・保険料ともに少なくなるため、社会保障制度そのものが崩壊しかねない。
日本政府は、2040年度に190兆円になるとの推計(2016年度:約117兆円)も公表している。
公的な保険制度の存続が難しくなってくるにつれて、Leagueのようなサービスが日本でも求められてくるのではないだろうか。