株式会社ミック研究所によると、HR Techクラウド市場は、2017年度には前年比142.8%の156.6億円となっており、2018年度には前年比の143.9%となる225.4億円まで伸びると予想されている。
このように、年々拡大しているHR Tech市場の中でも、同レポートが対象にしている4分野の「採用管理クラウド」、「人事・配置クラウド」、「労務管理クラウド」、「育成・定着クラウド」のうち、「人事・配置クラウド」分野がHR Tech市場を牽引している。人材配置や人事評価の手法の一つである「人材アセスメント」の海外サービス「SuccessFinder」を今回は紹介する。
人材アセスメントとは専門的な訓練を受けたアセッサー(評価者)が心理的測定ツールに基づいて適正配置や人材育成のために実施する評価をアセスメントのこという。
従来は知識・スキル・能力・その他人的な資質を履歴書から得られた学歴、職務経験、資格などの情報をシグナルとして用いれば事足りていた。
しかし、人材の流動化が進み外部市場からの人材獲得が増えていくと、人材の資質を評価・測定するニーズが高まってくる。
適切に人材の資質をアセスメントされれば企業内部で育成するにしても、外部から獲得するにしても必要な人材を得やすくなる。もう一方で企業が必要とする資質の要件が明確になることで企業と従業員のミスマッチが減るということが期待できる。
このような背景から人材アセスメントについても取り組む企業は増えている。
SuccessFinderは、カナダに本社を置く次世代の人材アセスメント企業で、2017年に設立された。同社が提供する「SuccessFinder」というテスト結果を分析することで、人材の雇用や開発、管理、促進の方法を企業に提案している。
同じくカナダに本社を置くOptimum Talentのサービスの一つであった「SuccessFinder」を切り離し、独立型ビジネスとしてスタートした。Optimum Talenは創業40年以上になる、人材管理会社で、SuccessFinder同様、人材アセスメントや研修を行っている。そのため、2017年に設立された新会社とはいえども、Optimum Talentで培った40年以上の知識や経験をもとに、質の高いサービスを提供している。
また、2018年6月から、ラバール大学のエルメスキャリア賞やケベックの金融業界人トップ25などの賞をしているチャールズ・ゲイ(Charles Guay)をパートナー、投資家、社長兼最高執行責任者(COO)に任命したことで注目を集めている
これまで採用においては、「スキル」「経験」が重要視されていたが、入社後のパフォーマンスとのギャップから解雇せざるを得ない場面も多く存在した。
採用時に入社後のパフォーマンスについて人事は当然だが知ることはできず、「スキル」や「経験」を元にパフォーマンスを想定して採用をする。
SuccessFinderは、候補者の行動特性などを分析することによって、入社前後での想定パフォーマンスのギャップを低減するサポートをするサービスである。
さらに、従業員のキャリア満足度とキャリア成功の両方を予測することもできる。
キャリア満足度とは、受験者(従業員)のキャリアに対する満足度で、適切な評価が行われると向上する。キャリア成功とは、受験者(従業員)が自身キャリアのなかで入社した会社でどのくらいの成果を残すことができるのかを示している。
受験者は約1時間かけて、340問のアンケートに答え、その結果をもとに行動特性などを分析する。
1人が受験する際にかかる金額は、HP上などには明記されていない。企業ごとにカスタマイズが必要だと考えられるので、SuccessFinder社に直接問い合わせる必要があるだろう。
ここで、SuccessFinderの5つの特徴を紹介する。
人々がどういう傾向で行動するかは、一人ひとり異なり、かつ複雑であるが、SuccessFinderでは、その行動の傾向を「問題解決」「対人関係」「ワーキングスタイル」などの大きく8分野85項目に分けて質問をすることで、より正確な分析を行うことができる。
SuccessFinderでは、受験者が「研究」「美術」「ビジネス」などの6業種35種類の職種にどれくらい適性があるかを測定する。
これを測定することにより、受験者がどんな仕事に向いているのかが分かり、1500以上の特定のキャリアで、成功できるかどうかを予想できる。
ハイパフォーマーの行動能力として「ストレス耐性がある」「変化受容性が高い」「自己管理が得意」など26項目が設定されており、85の行動傾向の組み合わせで、どの行動能力を持つ可能性があるかが分かる。
採用または配置においてSuccessFinderのテスト結果と26の行動能力を比較することによって、ハイパフォーマとして活躍してくれるかどうかを予測できる。
(26の行動能力)
(85の行動傾向の組み合わせで、どの行動能力を持つか推測できる)
ハイパフォーマーとして、500以上のロールモデルを、35のキャリアテーマに分けて設定している。
このロールモデルを指標に、従業員の評価や育成することも可能であるし、従業員自身の自己成長(明確な目標を持つ)にも役立つ。
しかし、例えば、ストアマネージャーや営業、投資アナリストなどといった職種ごとにロールモデルが異なるため、企業独自のロールモデルを設定することもできる。
APAとは、約10万人以上の研究者、教育者、コンサルタントなどをメンバーとする、アメリカの心理学を代表する科学的かつ専門的な組織だ。SuccessFinderは、厳格なAPA C1基準を満たす唯一の人材アセスメントツールである。
さらに、「SuccessFinder」によって計測された社員のデータをどう生かすかをSuccessFinderを導入する企業のマネージャー陣が、SuccessFinder社から直接学ぶことができるスターターキットがある。
価格は14,000カナダドル(2018年7月現在、日本円で約1,196,543円)。社員の行動傾向や能力が判明しても、それを活かす術を知らなければ意味がないので、このパックはSuccessFinder社も熱心に導入を推している。
スターターキットに含まれるのは以下の通りである。
SuccessFinderの競合には競合には、遊び心のあるゲームを用いて評価をするARCTICSHORESを提供する「Arctic Shores」や、心理テストを用いて社員を評価するcut-eを提供する「cut-e」などがあるが、こういった競合との違いは大きく3つある。
単純に性格を診断するテストではなく、ある特定の仕事にフォーカスした、業績に関わる行動傾向を分析する。
一般的なテストの20個分を網羅しており、かつ受験は1時間で終わる。
一般的なパーソナリティテストは、30%ほどの精度しかないが、SuccessFinderは85%の精度を誇ることが研究により証明されている。
今回は New Brunswick Power (NBP)を取り上げる。NBPは水力、石炭、石油、ディーゼル動力の発電所や原子力発電所など、北米最大の多様な発電システムを維持している会社だ。
NBPの課題は、会社の重役の多くが引退することによるポストの空きが問題で、人事配置プロセスが改善されなければ25%のポストに空きが出るという状況だった。
SuccessFinderを導入することによって、人事配置プロセスにおいて、リーダーシップや責任、共感、常識などの特性を基準に評価されるようになった。基準が明確になったおかげで、人事配置にかける時間も大幅に短縮された。
また、採用候補者にもSuccessFinderを受けてもらい、評価を行った。
その結果、これまで面接官の感情や主観に頼っていたが、SuccessFinderの客観的な分析を採用に取り入れることで固定観念をなくすことができ、現在は、より多様な人材が働いている。
また、雇用や引継ぎに加え、自己啓発、チームビルディングなどにもSuccessFinderが使われている。現在、2400名もの従業員がSuccessFinderのテストを受けている。
SuccessFinderのおかげで、NBPはこの15年間で以下のような成果を得た。
日本においても、人材アセスメントに特化したクラウドサービスが存在する。株式会社m-gramが提供している「m-gram」だ。過去に、twitterで話題になったので、知っている人もいるかもしれない。
「m-gram」は世界初のパーソナリティクラウドで、簡単な質問に答えるだけで、性格のカテゴリの44種類のうち、その人の性格がより強く出ている8種類が抽出される。
「m-gram」は、大企業の人事部で使えるレベルの診断精度であるにも関わらず、何人受けても無料で診断することができ、国内では既に400万人が受験している。
さらにm-gram性格パラメーターは、外部サービスとの連携を前提に設計されているため、プライベートやビジネス、オンラインやオフラインなど、様々な場面で使うことができる。
ただし、SuccessFinderと比べると、行動特性や行動能力ではなく、性格診断に近い点に注意すべきである。業績に関わる行動傾向や行動能力は測定することができない。
2018年7月中旬にはm-gramのアプリ化を予定しており、より簡単に診断を受けることが可能になる。
今回は海外の人材アセスメントサービスについて解説した。今回は紹介していないがネット広告の大手セプテーニHDではAIを活用し、新入社員の個人特性と職場環境の定量なデータによる配属の最適化に取り組んでおり、日本国内でもスキルや経験以外の情報を元に採用や人材配置に活かしていく動きは増えていくであろう。