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ビジネス環境が大きく変化するなかで人事は何をすべきか?モザイクワーク髙橋氏

「戦略的人事」「CHRO」と言う言葉がメディアで取り上げられるように人事部に求められる役割も受動的に業務をこなすというより、会社の戦略に基づき、中長期的な組織力向上へ寄与する提案や行動が求められるようになってきている。では具体的にどのような役割が求められて、どういう考えをもって働くことが必要なのだろうか?
毎月ウィルグループ協力のもと実施しているHR Techスタートアップと人事担当者のギャップを埋めるミートアップ「HR Tech 90」、今回のテーマは「攻めの人事労務」。

変革期における組織改革を得意とし、モザイクワーク社に従事しながら複数社の人事に携わっている株式会社モザイクワーク取締役COO髙橋氏、従業員の様々な健康情報をクラウドに一元的に集約管理するサービス「Carely」を提供する株式会社 iCARE 代表の山田氏をゲストに迎え開催された。今回は一部の株式会社モザイクワーク髙橋氏のレポートを紹介します。


髙橋 実 氏
株式会社モザイクワーク 取締役COO
国家資格キャリアコンサルタント

株式会社ジェーシービーにて主に新規事業企画・推進業務に従事。その後NTT、トヨタグループのクレジットカード事業立ち上げに携わり、2008年よりトヨタファイナンス株式会社東京本社総務人事マネージャーに。その後株式会社廣瀬商会、株式会社HDEの人事を経て、2017年5月モザイクワーク入社。2018年4月より現職。ワーキングマザー活用、グローバル人材採用、「海外出張カバン持ちインターンシップ」等企業の変革期における組織改革を得意とする。イベントでの講演多数。現在モザイクワークに従事しながら複数社の人事に携わる「本気の複業」を行っている。

労働人口減少こそ日本企業が取り組まないといけない課題


髙橋氏がCOOを務める株式会社モザイクワークでは、企業の組織・人事コンサルティングを行っている。組織の入り口である新卒採用、中途採用から人事制度設計、組織改革まで、組織ごとに違う課題に対してオーダーメイドに企画し、企業人事経験者だからこそできる解決策で課題解決をするプロフェッショナルコンサルタント集団。業種も企業ステージも異なる企業で人事実務をハンズオンで経験してきた高橋氏は、変革期における組織開発を得意として様々な企業の課題解決を行っている。

髙橋氏はまず日本企業が今後必ず直面する「労働力人口の問題」について「企業人事が解決しなければいけない一番大きな課題」と投げかけた。

髙橋氏:
厚生労働省が6月1日発表した人口動態統計によると、2017年に生まれた子どもの数は前年よりも3万人余り少ない94万6060人となり、過去最少を更新しています。総務省が発表した2016年情報通信白書によると、今の7,500万人ある労働力は、2060年には4,500万人を切り、3,000万人の労働力が失われるというデータも発表されています。

髙橋氏:
これからの日本は世界でも未曽有の労働力人口減少に直面することになり、企業内でこの問題について話題が出てこないのは大きな疑問です。

現在髙橋氏がコンサルティングをしている九州の大手飲食店チェーンでは、地元では採用できる人が大きく減っており、採用予算も大手企業と比べると十分にかけられないため、雇用不足で事業継続ができないという問題が顕在化しているという。都内よりも地方においては人手不足は深刻で、今後日本のほとんどの企業が同じ課題に直面するだろうと指摘する。

そして、採用難も大きな課題だが、高齢化による介護問題も深刻だと指摘。

髙橋氏:
社員のご両親などの介護が生じた場合。いま元気で働ける人が、明日から突然介護のために働けなくなることも起きてしまう。この介護問題についても対応を進めていくことが必要です。

このような環境の中で人事労務は何をすべきか?


髙橋氏:
人事の仕事は、「人事全般」、「経営人事」、「戦略人事」の3つであると慶應大学の髙橋俊介先生は言っています。人事全般というのはルーティンの実務。経営人事は賃金制度の見直しや年金制度の切り替えなどで倒産を防ぐなど経営の収益を考慮した人事業務のことをいいます。近年言われている戦略人事とは、中期的視点から他社との差別化を図り優位性をつくる人事業務のことを指します。会社の売上やKPIなどを把握し、他社の動向を踏まえた上で人事に落とし込むことができる人材のことです。「事業視点」を持っているかがとても重要な要素です。

続けて、戦略人事が求められるのかを時代背景や経営者の特性を交えつつ解説。

髙橋氏:

組織を構築するには、「事業戦略」「マーケティング戦略」、そして「組織戦略(人事戦略)」の3つが礎となります。経営者はどうしても事業やマーケティングを優先しがちで、組織戦略まで手が回らないことが多く、組織戦略、すなわち人事だけ抜けてしまうことが往々にしてあります。

そして、高度成長期には企業が成長すれば社員は給料が上がり幸せになる、企業と社員の目的がマッチしていたものが、時代変化とともに企業と個人の考えがどんどんずれてきています。
今後の企業は環境変化により競争力が必要な企業は、社員は優秀な人材だけで固めたいと考え、一方で社員は個人としての志向を強め、ニーズが多様化し、企業と個人の間のギャップがどんどん大きくなってきています。

髙橋氏:
このギャップを埋めるのは誰か。本来解決に近い立場にいる仕事についているのは「労務」なはずなのです。

勤怠管理を見てアラートに気づくことができるか?


髙橋氏は人事労務実務の事例をあげつつ企業と個人のギャップを埋めるためのヒントを伝える。

髙橋氏:

勤怠データは「仕事における日記」だと僕は考えています。
例えばいつも朝早く出社していた社員が、突然始業時間ギリギリに出社するようになったり、直行直帰が増えたらどうでしょう。
これには本人のモチベーションや生活などに必ず原因があります。勤怠データを見て、「なぜ直行直帰が増えているのか」と考えを進めることができる労務担当者は少ない。勤怠データは、管理する義務があるためにやっているとか、給料の元データとしか捉えていない人事担当者は多いのではないでしょうか。
試しに社員の勤怠データを3ヶ月分くらい見てみてください。社員のモチベーションの浮き沈みの状態が見えてくるはずです。

他にも労務が取り扱うデータからわかることが多いと髙橋氏はいう。

髙橋氏:

社員が引っ越ししたら住所変更の届けを労務に出します。
たとえば住所変更が短期間で2回もあったらどうでしょうか?
おかしいですよね。プライベートで何か重大な変化があった、そう考えるのが自然です。

会社が社員のプライベートまで気にする必要があるのか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、人のモチベーションはそんな簡単に仕事とプライベートを分けられるものではないですよね。プライベートの出来事は仕事のパフォーマンスに影響を与えます。こういった何気ない社員の変化について気づくことができるデータを会社で一番持っているということを労務担当者は意識することが必要だと思います。

そして、HR Techについても言及するが、ツールとしてではなく人事労務実務知識を持たずにHR Techを活用としても難しいと話す。

髙橋氏:
よく最近ではHR Techが流行っていますが、人事実務の本質を知らずにHR Techを入れても意味がない。HR Techはツールでしかないので、社内で何が起こっているのか読み取るためには人事労務実務の知識が不可欠です。

そして、カルビーの松本会長の記事を紹介しながら、常識や既存の制度の枠だけで考えず、将来を見据えた制度設計が重要と話す。

高橋氏:
カルビーの松本会長のインタビュー記事をご覧になったでしょうか。「残業手当はなくすべき」という一見大胆内容です。

参考:残業手当はすぐになくしたほうがいい カルビー・松本会長 (ITmedia ビジネスオンライン)
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1806/05/news064.html

髙橋氏:
記事では、「働き方改革をやるのであれば残業手当をなくせ」とか「一律の就業規則などないほうがいい」とか「社員はオフィスに来なくてもいい」など、常識から考えるととても大胆な施策についてお話しされています。「自社でやれるわけはない」そう考えている人事の方は多いのではないでしょうか。

でも、「常識や既存の制度」は本当に正しいのでしょうか。こういう記事を読んで「うちにはできない」と諦めてしまうのではなく、常識や今の制度に縛られるのでなく、本質の課題は何なのか。それを考えることが大事なのではないでしょうか。

先ほど述べた通り、日本の労働人口は減り続けますし、働く環境は大きく変化しています。今後の変化を予測して今の制度があっているのか見直す、これこそがまさに人事に求められる視点です。

戦略人事が取り組むべき2つのこと

これからの人事が取り組むべきことは「事業構造を変える」、「多様な人材を活用する」の2つに集約されるという。

髙橋氏:
前職のビジネスモデルは、以前はITゼネコン構造の下請け企業の位置づけでした。下請けの会社は、クライアントの要望に100%応えなければならないため、クライアントに左右されて働き方改革に取り組むなどできません。そこで、ビジネスモデルを、クラウドサービス事業へ転換したとこにより、社内環境が大幅に改善しました。

髙橋氏:
さらに、事業計画上の売上目標は10倍になっているにも関わらず、社員数は2.5倍しかない。これではブラック企業ですよね。でも、だからこそ生産性を上げなければいけないと考えるようになるわけです。

髙橋氏:
でも、どうすればいいのでしょうか。
これまで通りの社員と同じレベルの社員を採用していたのでは生産性は上がらないので、採用基準を引き上げ採用する人材のモデルを変えました。

でも、企業プレゼンスが低く採用力がない。
であれば、勤務制約条件があり他社では採用されない優秀な人材を増やしていったり、他社がやらない日本語ができないグローバル人材を採用するなど、優秀な人材であれば、勤務体系や国籍は問わないことにして、採用力を強化しました。

今後の労働人口減少を考えるとグローバル人材の活用や制約条件をもった人材の活用は必要不可欠。まずは一人でもいいから採用してみる、他社がやらない施策にトライする、チャレンジが大切だと思っています。

他にも働く環境の整備も戦略人事の仕事としては重要だといい、前職時代の事例をもとにどのようなことができるのかを説明。

髙橋氏:
自分の家が汚かったら嫌ですよね?それと同じで会社でも気持ちよく働きたくなるような環境づくりを行い生産性を上げることが大切です。仕事の集中力は2時間が限界です。でも、オフィス内に環境を変えて働ける場所を複数つくり、場所を変えて働かせることでリフレッシュして仕事に当たれる。こういった工夫で生産性を上げることができます。

髙橋氏:
人事制度設計も大事です。
例えば、昨年改正された育児介護休業法では、休暇を取らねばいけない法律にはなっているものの、企業での運用ではこの休暇は無給でメリットがないので、実際には社員は余っている有休を取得してしまう。制度がありながら機能していないわけです。法律どおり制度を作るだけでなく組織の環境や社員のニーズに合わせてカスタマイズしていく、介護休暇の対象はほとんどが二親等まで。でも、子供がおらずペットを飼っている人は、ペットが子供のようなもの。心の痛みは同じなわけです。であれば対象範囲は問わず申請性にするなど、社員の仕事のパフォーマンスに影響の与える部分をサポートできるような制度づくりなども取り組むといいでしょう。

高橋氏は、例として「スタートアップから成長フェーズの企業」で起こることを解説し、その中で人事が打つべき打ち手について語る。

高橋氏:
スタートアップ企業はコアな社員がそれぞれバラバラで能力発揮するけれど、組織が少しずつ大きくなるとやがて混乱し、それを統一しようという動きが起こり、さらにそれを機能的に動かすという、フェーズごとに変化していきます。

人事は、このような組織の変化に応じて何が起こるのか、そしてその中でどのような打ち手を打たねばならないのかを常に準備し、対策を実行していく必要があります。それが、本質的に人事がやらねばならないことです。

最後に、今自身が取り組んでいる「本気の複業」について、髙橋氏は語る。

髙橋氏:
今僕は、「本気の複業」という「人体実験」をしています。
昨年転職活動をしていた時、人事責任者として「フルコミット」を求められる。それは当然だとしてもそのための条件として「フルタイム勤務してくれ」と言われてしまう企業がほとんどでした。この2つの要素は違うものなのに同じテーブルで語られてしまう。これがどうしても疑問で、であればあえて「会社への在席義務がない」という企業での複業「それぞれの企業でフルコミットし、100%のパフォーマンスを出す」そういう条件にあえて振り切って転職を決めました。

今、「副業」はブームだけれど、それぞれみな「本業で余った時間を副業にあてる」というのがほとんどです。でも、今後の日本の労働力人口減少を考えると、「一人の人の時間をシェアする」だけでは生産性向上には寄与せず労働力不足解消には到底追いつきません。「優秀なナレッジを持っている人が、複数の会社に労働再配分をする」。例えば僕は、人事という仕事。企業ごとにやることは微妙に違えど仕事のベースラインは一緒。であれば、そのナレッジを複数の会社に「再配分」し、一人当たりのパフォーマンスを上げ、世の中の労働力を増やす。これにより初めて労働力減少に寄与できると思うのです。

複業の本質は、一人の労働時間の単純に分けるのではなく、複数の組織で複数のパフォーマンスを上げていくことではないかと考え、だからこそ「”本気”の複業」にトライしている、

「働くこと」を「働き方」から「生き方」へ変えていけば、初めて全ての人が活躍でき、これから起こる日本の環境変化に対応できる。そのための人事の役割は、大きいと思います。