HR Techナビでは、国内外のHR Techに関する最新トレンド、活用事例などHR Techに関わる人にとって役に立つ情報をお届けいたします。

人材確保・定着のためにできることiCare山田氏

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することだ。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されている。今回は人材確保・定着のためになぜ人事が健康経営に取り組むべきかなどHRの取り巻く環境の変化とともに、株式会社iCARE代表の山田氏に語っていただいた。


山田 洋太 氏
株式会社iCARE 代表取締役 CEO
産業医・労働衛生コンサルタント
総合内科専門医、心療内科医
離島医療を経験後、慶応ビジネススクール(MBA)修了。在学中にiCAREを創業、卒業後病院の経営企画室長に従事。嘱託産業医としてIT企業を中心に多くの経験を積む中で、場所や時間、機会にとらわれない働き方と健康を産業医の専門領域としている。厚労省「柔軟な働き方検討会」にも参加。

労務と密接なつながりに産業医とは?


労務と密接に関係のある産業医についての役割や成り立ちから講演をスタート。

山田氏:
ヨーロッパの国の一部は日本と同様に産業専任の義務がありますが、アメリカにはない。アメリカには義務がないものの、訴訟のリスクなどがあるために多くの会社では産業医を置いています。産業医は働く人の健康を保つため、つまり労災を防ぐために存在しています。

山田氏:
産業医のもともとの始まりは軍医と言われています。軍医は治療だけでなく、「この人は前線に留まることができるのか」「それとも、もう帰るべきなのか。」を判断していました。当時の軍医の悩みのタネは「脚気」による戦線離脱。
日清戦争では戦死者 293名に対して脚気による戦病死者3,944名といわれており、脚気のような病気の原因解明や疫病を防ぎ、いかに軍力を高めるのかということに取り組んでいました。

山田氏:
働き続けても良いかどうかという判断もそうですが、産業医は働く環境の整備や働く人の健康のリスクを減らすために活動をしています。

HR(人事)領域における大きな潮流


山田氏は、続けて人事労務を取り巻く環境の変化について言及し、なによりも日本企業が直面する課題は「労働人口の減少」と指摘した上で人事労務担当者の意識について警鐘を鳴らす。

山田氏:
人事や労務担当もこの課題に向き合っていくべきだが目先の業務に追われていていて未来のことに取り組めていない。人事の戦略や人事の計画についてきいても明確に回答できる担当者少ないです。

山田氏:
いつの時代においても国であれ企業であれ優秀な人材を確保することが肝要です。
中小企業庁の調査結果にでているとおり人材確保が経営課題のなかでも大きなウェイトを占めます。その解決策としては一人あたりの生産性の向上、日本以外から人材を引っ張ってくる、これまで制約があり労働力となりえなかった人たちを活用するというものがあります。

続いて人材の流動化について説明。

山田氏:
1990年代半ば以降、バブル崩壊後の長期経済低迷における雇用情勢の悪化 や人事管理の個別化、いわゆる非正規雇用の増加を背景に労使間の訴訟は増えています。
また、20代・30代の転職回数は増えて人材の流動性は高まっており人事労務を取り巻く環境は大きく変化しています。

山田氏:
一方で従来どおり人事労務のなかでも従来どおり採用に予算をかけて終わっている会社も少なくないです。これまで話をしていた人材確保の難しさ、人材の流動化という潮流を踏まえると採用以外にも採用した人を育てて優秀な人材として活躍してもらう、人材配置や評価制度を見直して活躍しやすい環境を整えるというやり方もありますし、定着を促すような労務というのが注目を浴びているのは当然といえます。

山田氏:
採用、人材育成・配置、労務において新しい取り組みをはじめる企業がでてきています。採用ではリファラル採用であたりAI採用であったり、HR Techサービスを活用して人事評価制度を導入したり、人事労務の効率化をはかったりなど。
ただ、こういった課題をテクノロジーで解決するためのサービスは出ているものの、サービスを導入しただけでは何も解決しません。

人材確保・定着をあげるためにできること


山田氏は人材がやめる理由を説明した上で、体調不良が原因でやめている割合が無視できないことを述べた上で、従業員に対する健康管理へも大きな変化が生まれているという。

山田氏:
これまでは働き続けることができるかどうかの判断や、休職者の復帰が健康管理のなかで取り組む事項でした。しかし、いま働いている人たちの日々の生産性の損失(プレゼンティズム)をいかに無くして、生産性を上げていくのか?ということが重要になってきています。
またメンタルヘルスケアについても企業にとっては重要な取り組みです。
このように健康管理がコストではなく、健康投資という流れになってきています。

日々の生産性の損失を無くしていくためにいま働いている人の健康を管理することが大切であるが課題もあるという。

山田氏:
今日参加している方で私は病気だってかたはいますか?いませんよね。
このように多くの人は自分は病気じゃないと思っていますし、健康に気を遣っている人は自分自身でウェアラブルデバイスを買ったりジムに行ったりしています。
一方で日々の業務の中で生産性の損失が生じている人材というのは、そもそも健康に対して意識がない人です。人事労務はこの人たちにいかに健康に関心をもってもらうのかがポイントです。

続けてメンタルヘルスケアを取り組む際の注意点について

山田氏:
メンタルが不調になる要因は単純に過重労働だけということはありません。プライベートで何かあったかもしれないし、職場の人間関係で何かあったのかもしれないというように複雑に絡み合っていることがほとんどです。

山田氏:
メンタル不調に陥っている人自身その状況に気づいていないことも多く、ラインマネジメントといわれるような上司の存在や他者から気づかせてあげるということも大切です。
本人が申告した理由だけでそういう状況になっているわけではないと心に止めておく必要があります。こういった勘所は面談などと積み重ねていくことでしか身につきません。

健康投資は実際に経営にインパクトを与えるのか?という疑問に回答すべく健康投資の効果について説明。

山田氏:
健康投資に取り組む企業はすでにポジティブな影響がでています。
一つ例をあげると、ハーバードビジネスレビューで紹介されていましたが、健康増進プログラムの効果が高い企業では9%、効果が低い企業では15%と大きな差があります。(※)
※健康増進プログラムの知られざる投資効果 September 2014 Diamond Harvard Business Review”

健康経営を進めて会社として事業が伸びる会社とそうじゃない会社


山田氏:
健康経営を取り組んで伸びる会社とそうじゃない会社というのが当然でてきます。
失敗する会社は健康経営がブームだからといって取り組みます。課題を解決するために取り組んでいるわけではないので、社内での推進力もなく止まります。
働き方改革などでも注目を浴びるSCSK社やメルカリ社は、健康経営の取り組みをうまくPRをして採用力強化に繋げています。

山田氏
健康経営に取り組んでい伸びる会社の特徴は、事業戦略がまずしっかりあること。
事業戦略に紐づく人事戦略があり、人事戦略を実現するために健康戦略を取り入れています。課題が明確なために何をしたらいいのかはっきりしていて社内の推進力があります。

山田氏
健康経営は事業戦略と結びつき長期的な取り組みです。長期的な取り組みであることを認識した上で社内の予算を確保し、企業価値を高めるために健康経営を取り入れていくという姿勢が大切です。

人事を取り巻く環境が大きく変わっているなかで人材の確保および定着というのは人事の大きな悩みだ。この悩みを解決するアプローチの一つとして健康経営がある。
ただ、健康経営に取り組むには、上位の事業戦略や人事戦略と果たして紐づいているのかという点は気をつける必要がある。
山田氏が代表を務めるiCareではCarelyというサービスを提供している。健康経営をスモールスタートではじめたい企業にとってぴったりのサービスだ。一度確認してみてはいかがだろうか?

Carely 働くひとのチャット健康相談サービス|iCARE
https://www.icare.jpn.com/services/