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パルスサーベイによるプレゼンティーズムと社員幸福度の可視化「FairWork pulse」

(2019.12.26 一部修正)
(2020.03.12 一部修正)

プレゼンティーズム(Presenteeism)とは、ビジネスパーソンが気分や体調が万全でない状態で働くことに伴う、業務遂行能力低下による経済損失のこという。欠勤や休職による損失(アブセンティーズム,Absenteeism)や医療費に比べるとその金額ははるかに大きく、社員1人あたり年額数十万円にのぼるとされるが、組織や時期ごとの数値化が難しく、これまで経営指標として意識されることはなかった。

一方、平成29年度「過労死等の労災補償状況」によると、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償状況は過去最高の509件を記録している。心身ともによいコンディションで働ける環境を用意することは、組織としてのリスクを減らす意味でも優秀な人材を確保する意味でも、その重要性を増している。社内に潜む見えない心身のリスクを把握し、対応するためのサービスが「FairWork pulse」だ。

FairWork pulseは、「業務」「人間関係」「体調」「パフォーマンス」と「幸福度」など計6問の社員アンケートを毎月繰り返すことにより、職場の状況や体調に紐付いた業務パフォーマンスおよびメンタル不調のアラートを継続的に把握する、パルスサーベイツール。


組織や従業員の状況を把握するツールとしてはwevoxやGeppoなどがあるが、株式会社フェアワークは2人の精神科産業医が創業しており、フリーコメントの仕分など裏方のオペレーションは同社の臨床心理士などメンタルヘルス専門家が担う。

これによりアラートケースを顧客の人事担当者へ適切にエスカレーションすることが可能となり、かつ別料金にて臨床心理士とのチャットカウンセリングへ誘導できる点が、大きな違いだ。また近年、「幸福な社員は生産性と創造性が高い」との研究報告が相次ぎ、企業業績の結果としての幸福度ではなく、むしろ業績の重要なファクターとしての社員幸福度への注目が集まっているが、FairWork pulseは自社業績の先行指標となる社員幸福度モニターとしての利用も想定している。

数値で回答する質問は5問。0から10で健康関連の業務パフォーマンスなどを把握する。スマホからの回答を前提としており、メール配信されるURLからのワンクリックでログイン。もちろんレスポンシブ対応だ。

テキスト回答内容は同社の臨床心理士などメンタルヘルス有資格者が確認し、分類する。もし社員が人事担当者へ早急なエスカレーションを希望する場合は、ダイレクトアラートボックスをチェックする。

管理画面では回答状況や部署ごとのアラートへの対応進捗管理や、各項目の数値変化を確認できる。

パルスサーベイを重ねてデータを貯めていくことで、たとえばこれまで健康関連の業務パフォーマンスをおおむね8と回答していた社員が今月は3と回答していたらアラートを立て、社内担当者からヒアリングの機会を用意する、などの打ち手を考えることが推奨される。

また繁忙期など、特定の時期に部署の業務パフォーマンスが落ちる傾向が確認できたとしたら、会社としてなんらかの制度に落とし込むなど、人事の施策を考えるきっかけや効果検証をするためのツールとして活用できるだろう。

各指標を継続的にウォッチすることで社員の心身の状態把握が可能となり、人事担当者側で対応困難なケースが発生すればまずは自社の産業医や保健師などの健康管理スタッフへ、逆に社外リソースで対応した方がよいケースであればチャットカウンセリングへの誘導が効果的と考えられる。

6つの質問(選択式5問・フリーコメント1問)以外にも、会社のビジョンの浸透度アンケートや組織活性度の把握など、組織として定期的に調査したい項目があれば自由に変更することができ、業務パフォーマンスに結びつく定量的な質問から、機微な情報を含む定性的な質問までカバーできるツールとなっている。

健康で生き生きと末永く働く人であふる社会を目指す

株式会社フェアワーク(2019年9月株式会社フェアワーク・ソリューションズかより会社分割し設立)は東京大学大学院および千葉大学医学部出身の2人の精神科医が起業。「フェアでヘルシーな社会の実現」を掲げ、関連医療法人は都内2ヶ所でメンタルクリニックを運営し、グループでは「健康」を起点においたコンサルティング事業などを展開している。

代表取締役社長の吉田健一氏は精神科産業医として今も東証1部上場企業を含む多くの企業を担当しているが、現場からのアラート情報が人事部門へ上がってくるまでに時間がかかり、結果的に対応が後手に回って社員のパフォーマンス低下が長期化したり、離職に至るケースの多さを目の当たりにし、今回のサービス開発の着想に至ったという。

「従業員50人以上の事業所には労働安全衛生法に基づいたストレスチェックが義務付けられていますが、年に1度だけで、かつ現場と共有できる情報には厳しい制限があり、集団分析をしても組織改善へ結びつけるには無理があると感じます。ビジネスのスピード感や、社員の会社組織に対する視線が大きく変化してきている現在、パルスサーベイのように高頻度に社員の状況を把握し、アラートケースの対応は専門家とも役割分担しながら、人事担当者が打ち手を考えられるような仕組みが求められていると思います」(吉田氏)

産業医としての現場経験から「現行のストレスチェック制度では、高ストレス者は社員数1000名の会社だと100名ぐらい、うち産業医面談に来るのは厚労省のデータではわずか6人」と吉田氏は話す。

「高ストレスに該当していても、人事側からは有効な打ち手を打てていない社員が相当数存在しています。もともとのパフォーマンスには問題がなくとも心身の不調のためにローパフォーマー化しているケースも多いのですが、社内リソースとしてヘルスケア専門職を雇用できる組織はごく限られているため、休職や突然転職してしまう可能性があるハイリスク群へのアプローチができていません。メンタル不調や体調不良がありつつも、辛うじて出社している社員の声に、誰が耳を澄ませ、誰が対応をするのか。そこに当社として解決できる課題があると思いました」(吉田氏)

今後の展開として吉田氏は「社員の健康状態の把握やエンゲージメントの総合調査として年に1-2回実施する、センサス調査を手がけたい」と話す。

「まずは他社で提供されている、勤怠管理や労務管理のシステムとAPI連携をしていきたい。ここ数年来の労務関連のAPI公開の流れに続いて、厚生労働省が主導して特定健診情報など健康関連APIとの連携が進む見込みであるなど、この分野には追い風が吹いていると感じます。働く人の心身の健康関連情報と、会社組織が持つ人事マスターデータを結びつけ、健康で生き生きと末永く働くための支援に取り組んでいきたい」と吉田氏はAPIを通じた他社とのデータ連携にも意気込む。

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