オンボーディング(on-boarding)とは、新卒や中途の新入社員に対して、仕事をする上で必要な知識や技術・スキル、会社で求められる行動などを教育して、会社に早くなじんでもらい、早期戦力化するための仕組みです。
オンボーディングの仕組みが上手く機能することで、入社後に起きがちな短期離職を防ぎ、社員の定着率を高める効果が期待されます。
元々、ボード(board)は「船の上」を意味し、自分達の船に新しく乗組員を迎える時の言葉としてオンボーディングという言葉が使われていて、それが会社に社員を新しく受け入れることへの比喩として、応用されるようになりました。
英語では歓迎の気持ちを表す際に”Welcome on board!” と言ったりするので、新入社員を喜んで迎えるニュアンスがオンボーディングにもあるようです。
オンボーディングの仕組みが、人事業界でなぜ注目を集めているのでしょうか?
中途採用サポネットの「中途採用状況調査 2019年版(2018年実績)」によると、「人材の過不足感」について次のようなことがわかりました。
人材の過不足感は、「不足している計」が6割強で、「余剰感を感じる計」の3倍以上を占める。16年・17年と同様に、全体的に人材不足な状態が続いている。
中途採用サポネット 中途採用状況調査 2019年版(2018年実績)
業種による違いなどはありますが、過半数の企業が人手不足を感じており、採用に力を入れつつも、なかなか人財不足感を解消できずにいる様子が伺えます。
そのような中、苦労して入社してもらった社員がすぐに離職しないように、いかに会社に長く勤めて貢献してもらうかを考える「定着」が注目されています。
実際、エン・ジャパンが2019年1月~2月に実施したアンケート調査では、今後、定着率向上について、62%の回答者が「積極的に取り組む」、20%が「一部の人材について取り組む」と答えています。
その中で、「なぜ定着に取り組むのか」という質問に対して、「育てた人材を手放したくないため」、「新規の人材採用が困難なため」という答えが上位に来ています。
人材不足と採用がなかなかうまく行かない状況や、採用にかける労力やコストを踏まえたときに、定着に力を入れることで問題を解決しようとしていることがわかります。
参考サイト:エン・ジャパン 中途入社者の定着について
多くの企業では、新卒社員の受入に対しては用意周到さが見られます。「初めて社会に出た時の会社として自社を見た時に、今のままでいいのか?」と人事担当者を中心に自問自答が始まり、内定者へのフォローから、入社後の様々な手続き、新卒社員研修や個人面談など、比較的手厚い対策がなされており、新卒社員の定着がうまく行えている会社ではオンボーディングが機能していると言えます。
一方で、中途社員に対しては新卒社員と異なり、「即戦力」として見る向きがあるので「それくらいは出来て当然」、「教えなくても出来るはず」という雰囲気が社内に漂っているのではないでしょうか。
これまでとは全く異なる環境や会社の風土の中、中途社員は孤独を強いられ、必要な支援を得られないまま仕事もうまく行かず、結果としてすぐに辞めてしまう…
特にスタートアップ企業や中小企業では、会社がやや大きくなり始めたときに、創業者や創業メンバーとの思いや感覚のズレから「中途社員の短期離職」が起きる傾向があり、それを防ぐための効果的な手法として、オンボーディングが日本でも注目され始めたと考えられます。
オンボーディングがうまく機能すると、従業員に対していくつかの前向きな効果が得られるとされています。
もちろん、全てが必ず結果として現れるわけではないと思いますし、事前の準備やプログラムの設計にはかなりの労力と時間が必要となります。
また、忙しいことを理由に役員や社員の協力が得られない、そもそも、オンボーディングへの必要性を理解してもらえないなど、会社の体質から実行が難しい場合もありえます。
オンボーディングを会社に導入するには、トップの十分な理解を得て、関係部署の協力をうまく取り付けることが必要になります。
オンボーディングは、入社前から、入社初日、入社後数ヵ月~1年の期間で適用される仕組みで、いくつかのステップを踏みます。次に挙げるステップはあくまでも一例ですので、自社で検討する際は参考程度でお考えください。
新卒でも中途でも、新しい環境に飛び込むことには不安や心配が付きものです。内定から入社までに間が空く場合は、メールやチャット、電話でのやり取り、場合によっては懇親会の開催など、コミュニケーションを取っておきます。
この時、入社後の流れについて事前に通知、入社手続きに必要な情報の取得、疑問に思っていることのクリアなど、相手の不安を払拭できるように、かつ、入社後の手続きをスムーズに行えるようにしておきます。
入社後の事務手続きは、社会保険の加入など必要な項目は決まっていると思います。これに加えて、自社独自の手続き、例えば、社員証や名刺、メールアドレス、PC、社内システムのID発行など、必要な項目をチェックリスト化しておき、事前に関係部署と連携を取って抜け・漏れがないようにしておきます。
事前の準備によって入社後の受入がスムーズになると、新メンバーは「ちゃんとしている会社だな」という印象を持てるので安心できますし、人事に対する信頼感も増します。オンボーディングが成功するか否かは、入社前の準備をどれだけ行えるかにかかっているとも言えます。
オンボーディングの要は、入社後、いかに早く会社に適応して、戦力になってもらうかにあります。そのカギは入社初日が握っています。新メンバーは期待と不安の中、出社してくるわけですので、その気持ちを踏まえた上で、うまく軌道に乗せる必要があります。
会社の規模にもよりますが、役員や人事との公式面談、業務説明、会社で仕事を進める上で必要な情報提供(社内のシステムや諸手続きの方法など)、各部署への紹介など、あらかじめプログラムを組んでおき、スケジュールに沿って進めます。
他の社員を巻き込むことも重要で、ランチは先輩社員が連れて行ってざっくばらんな話をしたり、懇親会を設定して社内のネットワーキング(関係づくり)を行ったりします。
また、システムにログインした際にメッセージが表示されたり、最初にメールを受信すると社長からのメッセージが表示されたりするなど、ちょっとした工夫で「歓迎ムード」を出せます。
初日の最後に、「会社の雰囲気についてどう思ったか」など、フィードバックをもらうことで自社のオンボーディングの良い点や改善すべき点もわかります。
入社後は、配属先で仕事をうまく進めるために、配属先の上司との面談を通して、期待されている役割や目標を明確にしたり、部署全体の状況やスケジュール、課題の説明をしたり、困った時に助けてくれるメンターを紹介したりするなど、新卒・中途かかわらず、配属先のオンボーディングを始めます。
規模が小さい会社はOJTを中心に、「わからないことがあったら聞いて」というスタイルが多いと思いますが、必要な情報はあらかじめピックアップしておいて、事前に説明して最初に時間を割く方が、お互いの時間を節約することになり、効率的です。一回作っておけば、その後も楽になります。
新入社員が実際に仕事に取り組んでみて、その後、どのような成果を出し、貢献できているのか、1ヵ月~数ヵ月単位で個人面談を行います。抱えている課題や、今後の目標などの擦り合わせも行い、お互いの認識をすり合わせます。
人事による面談も行うことで、本人が何を感じているか、トラブルを抱えていないかなど、確認することもできます。もし試用期間を設けているならば、期間経過後に正式メンバーになったことを祝うなどもありです。
軌道に乗ったら、社内で受けられる教育プログラムや、学習支援制度などを通じてキャリアアップを後押ししたり、会社の年間スケジュールに沿って適宜コミュニケーションを取ったりするなど、メンバーが安定すればオンボーディングは完了です。
参考サイト:
・Onboarding(Wikipedia)
・中途入社者に活躍してもらう秘訣とは? 中原教授に聞いた『中途入社者の早期戦力化』(エン・ジャパン)
・中途採用者の定着率が上がったオンボーディング施策を公開!(paiza開発日誌)
・新入社員が短期間で最大のパフォーマンスを発揮することを後押しするサービス「Enboarder」(HR Techナビ)
オンボーディングに関するHR Techサービスとして、株式会社FCEトレーニング・カンパニーのSmart Boardingをご紹介します。
後回しにされがちな入社後の教育・研修を、簡単な方法で体系化して自社ノウハウや業務に必要な知識をクラウド上にコンテンツとして作成、新入社員の早期戦力化を後押しします。研修の受講履歴も管理できるため、効率的にオンボーディングを促進します。
HR OnBoardは、離職リスク可視化ツールで、離職リスクがもっとも高い入社1年以内の従業員の状態を、月一回のアンケートで可視化します。退職意向が顕在化する前にフォローをすることが可能です。