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新入社員が短期間で最大のパフォーマンスを発揮することを後押しするサービス「Enboarder」

急成長中のスタートアップでは毎月のように新しいメンバーが入社し、1年で社員数が2-3倍の規模になるスタートアップも珍しくありません。
入社したメンバーがいかに早く組織に馴染み、自身の力を引き出せるようになるかどうかによって組織の成長の速度が大きく変わります。
しかしながら、入社決定から入社するまでは特にすることもなく、入社時に会社の事業やルールについて説明する新入社員研修をして、いざ現場にでても、明文化されていないルールや文化の理解や業務知識について知る必要もあり戦力として活躍するまでにはどうしても時間がかかってしまいます。

このような組織において重要視されているのが「オンボーディング(on-boarding)」という、採用時から入社してからも継続して行われ、新入社員を即戦力として活躍できる人材に育て、定着するようにする教育プログラムです。

オンボーディングの流れ

オンボーディングプロセス

ここでは、実際のオンボーディングのやり方をチェックリスト方式でご紹介します。

採用時

オンボーディングと聞くと、入社した初日から始まると考える人も少なくありません。しかし、オンボーディングは入社前の採用の段階から始まっています。新入社員は求職活動をしているときにはじめて企業との接点を持ちます。採用の段階で与える印象はとても重要です、採用時から入社後まで一貫した対応ができるよう準備を進めます。

・会社の成長速度を考慮し必要となるポジションを確認し、採用すべき人材の要件を明確にします。
・候補者に対し、必要な情報を伝えます。必要な情報とは役職や職務内容、そのポジションの目的や責任、採用プロセスとそれにかかる時間などです。
・面接時には、候補者の疑問に積極的に回答するようにします。面接以外の場でも、こまめに候補者と連絡を取り、質問があれば随時答えることも必要です。
・入社日を決め、新しい従業員の入る部署やチームにそのことを共有します。
・新入社員の情報を人事管理システムやオンボーディングソフトウェアに移行します。

採用決定から入社まで

採用が決まったら入社初日を有効な時間にするための準備に力を入れます。

・労働条件通知書や雇用契約書を送付し、新入社員に署名をしてもらいます。
・机やパソコン、名刺、会社のメールアドレスなど、新入社員が働くために必要な仕事環境を準備します。
・オンボーディングプランを作成します。共通で使えるコンテンツは使いつつ、勤務地や勤務形態、配属部署などに応じてオンボーディングプランをカスタマイズします。

入社初日

入社初日の印象は、その後の離職率に大きく影響すると言われています。
入社まもない時期にシャッフルランチを組むなど工夫することで、早く職場に馴染むことができます。

・新入社員にトイレの場所や各部署、休憩室などオフィス内を案内します。その案内時に部署やチームのメンバーなど、既存社員の紹介もおこないます。
・入社してからの一週間のスケジュールを伝えます。
・会社のビジョンや価値観、契約内容などに相違がないか改めて確認します。
・各新入社員にメンターを割り当てます。
・新入社員にオンボーディングプランの説明を行います。ここで、新入社員の意見を取り入れつつ、それぞれに合ったものにしていきます。

入社後

入社後のポイントは、フォローとPDCAです。オンボーディングプログラムに対するフィードバックをもらい、今後のオンボーディングに活かしていくのです。

・定期的にメンターと1on1ミーティングをおこないます。初回の1on1では3か月、6か月、1年の目標を設定します。
・入社して最初の1か月目、3か月目、6か月目、1年目のタイミングで振り返りを行います。その時点で問題があるようなら、随時オンボーディングプロセスを変更し、より良いものにしていきます。

オンボーディングで期待できる効果

オンボーディングを導入することによってどのような効果が期待できるのでしょうか。

・戦力になるまでにかかる時間を短くする

2015年にリクルートワークス研究所の行った調査によると、大学・大学院卒で新卒入社した社員が独り立ちしたと周囲に認められるまでに必要な期間の平均年数は4.8年(※1)。しかし、新卒の約30%は3年以内に離職すると言われています(※2)。

オンボーディングでは、全新入社員に一斉に行うのではなく、一人ひとりにあったプログラムで教育を行うため、それぞれに合った方法と期間で、短期間での戦力化が期待されます。

※1:リクルート研究所「Works 人材マネジメント調査 2015 基本報告書」、84ページ
※2:厚生労働省、「新規学卒者の離職状況」

・採用コストを抑える

オンボーディングの導入により、従業員が企業についてよく知ることができ、ミスマッチを防ぐことができ、短期間での離職率の減少が見込まれます。その結果、再度採用を行う必要がなくなり、コストを抑えることができます。

・組織としての結束力を高める

人材教育担当者が行う、新入社員向けの教育は、教育係や同じ部署のメンバーとしか面識のない状態で行われるものも少なくありませんでした。
しかし、オンボーディングでは、マネージャーとの面談など、新入社員だけではなく既存社員など多くの人を巻き込んで行われます。そのため、組織全体での団結力が高まるのです。

・信頼を築くことができる

オンボーディングでは、あらかじめその人に求める役割や企業の文化、オンボーディングのプログラム内容などを新入社員や、その人と関わるマネージャーなどの既存社員に伝えられます。また、その際に新入社員からの質問に答える機会を与えることで、新入社員からの信頼を獲得することができます。結果として、それが定着につながるのです。

・離職率の低減

日本企業の提供しているオンボーディングサービスを導入したある企業では、1年以内の離職率が56%から0%へ、別のサービスでも、利用企業の平均離職率が13.6%から5.3%に減ったという事例があります。

オンボーディングを行うことにより、企業内の情報の透明化、業務内容の明確化、人間関係の構築などが行われ、離職率を軽減することにつながります。

オンボーディングでやりがちなミス

・社内全体での管理ができていない

オンボーディングを実践しているにも関わらず人事担当者が新入社員のオンボーディングの状況を把握できておらず、うまくいっていない企業もあります。状況を把握できていない一つの原因として、事業部やマネージャーに任せっきりになっていることがあげられるかもしれません。
事業部によってメンター役になれる人が少なかったり、メンターの得意不得意もあります。そのため、配属された部署による偏りがあるのです。

・プロセスを正確に実施できていない

いくら良いオンボーディングプログラムを作っても、実行できていなければ意味がありません。イギリスの記事によると、オンボーディングを導入している企業の36%がプラン通りのプロセスを実施できておらず、その企業の新入社員の26%が6か月以内に仕事に失望しているという数字が出ているようです。

オンボーディングをサポートするEnboarderとは

今回は、効果的なオンボーディングをサポートし、新規採用者のエンゲージメント向上を高めるツール「Enboarder」を紹介します。

Enboarderは、組織が魅力的なオンボード作成を手助けする世界で初めてのエンゲージメントプラットフォームです。2015年に創業を開始し、オーストラリアのシドニーに本社を構えています。2016年にスタートアップの投資家であるコーポレート・イノベーション・ファンドから約114万ドル、今年11月にはアメリカのベンチャーキャピタルとオーストラリアのベンチャーキャピタルOur Innovation Fundから約360万ドルの資金調達に成功しました。

Enboarderの特徴

Enboarderの主な特徴を5つ紹介します。

①テンプレートを活用し簡単すぐに始められる

企業がオンボーディングを始める際に最初の課題となる、オンボーディングのやり方についてサポートをしてくれます。Enboarderでは、オンボーディングのテンプレートが用意されているため、すぐに始めることができます。そして、各従業員によってプログラムを個別に作成でき、テンプレートを使い、徐々に従業員それぞれに合ったオンボーディングプランを作成することも可能です。
オンボーディングを作成する際、難しいプログラミングの知識は必要なく、ドラック&ドロップでコンテンツページを作成できます。

②マネージャーをサポート

オンボーディングで大切なのは、継続的なサポートです。マネージャーは適切なタイミングで声掛けや目標設定が必要となります。Enboarderはそのタイミングを自動に調整してくれます。

③使いやすさ

Enboarderは使いやすさにもこだわっています。モバイル向けに最適化されており、いつでもどこでもどんなデバイスでもメッセージを受け取ることができます。
また、Facebook、電子メール、SNSなど、マネージャーと新入社員が使いやすいコミュニケーションプラットフォームを選択できるため、気軽にコミュニケーションをとることができます。

④フィードバックの可視化とPDCAサイクル

Enboarderでは、企業やマネージャーがどのタイミングで行動を起こしたのか、それに対する新入社員のフィードバックを収集することができ、その後のオンボーディングプランの作成に役立てることができます。

⑤様々なサービスとの統合

bambooHRやJobAdderのようなHRシステムや、slackやworkplaceのようなコミュニケーションツール、その他にも電子署名ツールとも統合しているため、多くのことをEnboarder内で管理、完結することができます。電子署名ツールと統合することで、通常入社初日に行われる契約書のサインを事前に行うことができ、初日の限られた時間を別のプログラムに使用することができます。また、管理の際、複数のアプリケーションを開く必要がないので、人事や新入社員の工数を削減できるのです。

Enboarderの主な機能

Enboarderは、全ての情報を一括管理することができ、会社全体のオンボーディングプランを簡単に作成・配信・フィードバックをすることができます。
ここでは、Enboarderでできることを紹介します。

①コンテンツページを簡単に作成

コンテンツページに画像やビデオテキスト、その他のビジュアル要素を簡単に挿入することができます。その他にも、マネージャー、同僚、チームメイトの情報や添付ファイルなどの挿入も可能です。
従業員に対して視覚的に訴えるコンテンツページを簡単に構築することができるのです。

②従業員とのやり取りの自動化

オンボーディングのフィードバックを求める際など、定期的に従業員へ送る必要があるメッセージは、事前に期間とメッセージを設定しておくだけで、自動的に対象となる従業員に送信してくれます。

③イベントとカレンダーとの同期

入社して数か月は、既存社員とのウェルカムランチや面談など、様々なイベントがあるでしょう。送られてきたイベントの招待を承認することで、自動で自身のカレンダーに反映することができ、スケジュールの入れ忘れを防ぐことができます。

④回答しやすいフォームとフィードバックの作成

ドロップダウンや複数選択、フリーテキスト、星評価など質問に応じてモバイルで回答しやすい回答方法を指定することができるため、フィードバックを集めやすいです。

⑤オンボーディングの進捗の確認

オンボーディングの手順が順調に進んでいるのかチェックするためのチェックリストを作成し、オンライン上でチェックすることができます。これを使うことで、マネージャーはもれなくオンボーディングプランを実行することができます。

⑥電子署名

雇用契約を行う際に必要な署名を電子署名サービスを使うことによって行うことができます。これにより、実際に書類を送付したり会社に来てもらう必要がないため、効率を図ることができます。

⑦オンボーディングやタスクの状況を一か所に集約

オンボーディングのプログラムや、タスクの進捗を一か所で簡単に閲覧できるようになっています。そのため、新入社員は、どのタスクが終わっていないのか、この後、どのようなプログラムがあるのかを自由に確認することができます。

オンボーディングの仕組化に成功したScentre Groupの事例

Enboarderは金融業、製造業、小売業、メディアなど様々な業種の企業に導入実績があります。CanvaやGUCCIなど世界的に有名な企業にも導入されています。

そんな中から今回ご紹介するのは、ASX(オーストラリア証券取引所)上場しており、オーストラリアとニュージーランドで40以上のショッピングセンターを運営しているScentre Groupです。Scentre Groupは年間600人以上を新たに雇用しています。

Scentre Groupの課題はオンボーディングが仕組化されていないところにありました。Scentre Groupはオーストラリアとニュージーランドという国をまたいで事業を行っていたため、新入社員のサポートはそれぞれの地域の管理職に任せっきりになっていたのです。そのため、マネージャーは新入社員が入ってくるたび、オンボーディングに多くの時間を費やしていました。

そこで、Scentre GroupはEnboarderを導入し、社内のオンボーディングプロセス全体を管理することにしました。すでに導入していたその他の人事管理システムと統合し、雇用契約書にサインをするとすぐに、その社員に対しオンボーディングを開始しました。

結果として、Scentre Groupはオンボーディングを仕組化することに成功し、従業員から良い評価を得ています。

Enboarderから学ぶオンボーディング成功のポイント

オンボーディングですが、一定の効果を得るには、企業文化の醸成と言語化が前提にあるものの、いくつかのポイントを押さえる必要があります。

・仕組化

まずは、仕組化です。オンボーディングプランを事業部やマネージャーごとに任せてしまうのではなく、社内で仕組化する必要があります。Enboarderの説明でもあったように、基本となるプログラムは共通のものを利用し、そこから少しずつ各社員にあったプログラムに変えていくことで、仕組化しつつも個人に合わせたオンボーディングプランを作成できるでしょう。

・継続

仕組化ができると次に課題になるのが継続です。新入社員が習得するスピードは人によって異なります。そのため、新入社員が習得できるようになるまで、オンボーディングプランを継続し、仕事や会社に慣れるようにすることが大切です。実際に、Enboarderでは、この継続をサポートするために、チェックリストがあります。マネージャーがオンライン上でチャックできるため、漏れなくプログラムを実行することができるのです。

・効果測定

オンボーディングは実行して終わりではありません。Enboarderのサービ説明にもあったように、新入社員、マネージャーの双方からフィードバックをもらい、次の新規採用に向けPDCAを回してい必要があります。そうすることで、よしよいオンボーディングプランの作成のみならず、新入社員の定着、会社の業績アップにもつながるでしょう。

Enboarderの特徴は、オンボーディングを成功させるために必要な「仕組化」「継続」「効果測定」の3つの要素を支えるプラットフォームになっている点です。

入社3年以内に離職する割合は約3割といわれており、採用難に苦しむ企業が多いなか、オンボーディングはスタートアップに限らず多くの成長企業でも重要性を増してきています。

オンボーディングを効果的に実施できるようにサポートするようなサービスは今後増えていくでしょう。