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ピープルアナリティクスとは~Googleも勧めるHRの重要テーマ〜

ピープルアナリティクス(People Analytics)とは、人事に関連する情報や数字を収集・分析して、客観的なデータを使って、採用、教育、評価といった一連の人事業務の意思決定に役立てることを意味します。

ピープルアナリティクスを推奨しているGoogleのピープルアナリティクス担当副社長は 「Googleではデータと分析にもとづいて、すべての人事に関する意思決定を行われるべきだ」 と述べているそうです。

実際、Googleのre:Workオリジナルサイトでは、データにもとづいたアプローチによって、人事面の新しい洞察を得たり、人事問題の解決に役立てたりすることでグーグラー(Googleらしい社員)を発見し、育て、定着させることにつなげていると言っています。

 

ピープルアナリティクスがなぜ重要か

これまで人事領域においては、人事部門に配属された社員の経験と勘に頼り、様々な意思決定や行動がなされてきました。

例えば、面接で誰を採用するかの場面を考えると、面接官が「ピンと来たから」とか「何となくこちらの人」といった客観性が担保できない理由から採用者が決まるパターン。また、「田中さんは最近元気がない様子だな」と人事担当者が思って面談してみると、やはり転職を考えていることがわかった、というパターンが想像できます。

もちろん、人の感覚によって採用を決めることが必ずしも悪いわけではありません。実際に、優秀な従業員の退職を勘だけで防止できるのは、それはそれで会社に貢献できていると言えます。

 

しかし、採用を主観で行ったがためにミスマッチを起こすケースはよくあります。また、退職の気配を察知することは誰もができるわけでもなく、従業員が多い場合は目の届く範囲を超えるので自然と限界が出てきます。さらに、社内の誰を昇進・昇格させるか、とか、誰にどのような評価を与えるべきか、といった複雑な問題は、明確な根拠や理由がなければ、意思決定に対して従業員の納得が得られません。

ピープルアナリティクスは、データ分析によって客観的な判断材料を得ることで、意思決定の透明性や公正さを保ち、良い結果をもたらす上で非常に役立ちます。

 

ピープルアナリティクスのメリット

要するに、ピープルアナリティクスは主観に頼って行われてきた「人事あるある」を排して、客観的に人事上の意思決定を行うわけで、以下にそのメリットを挙げます。

 

【意思決定側(経営者や人事部)】

  • データを基本に判断するため共通認識が得られやすい
  • 担当者が代わっても判断基準がブレにくい
  • 主観のみで時間ばかり使うムダな議論を避け、生産性を高める
  • 納得した意思決定が行いやすい
  • 意思決定に対する説明責任を果たせる

 

【従業員側】

  • 意思決定の影響を受ける従業員が説明を得られやすい
  • 根拠や理由が明確になり、納得しやすい
  • 受け入れがスムーズに行われるため、次の行動に移りやすい

など、従来型の人事慣行をはるかに上回るメリットから、注目が集まっています。

 

採用領域における活用法

では、具体的に、人事業務のどのような場面でピープルアナリティクスは活用されるのでしょうか。

まず、採用業務では次のような活用法が想定されています。

 

既存従業員の分析

採用を始める前に、既に自社で働いている従業員の属性情報をもとに、どのような構成になっているかを把握します。例えば、年齢比率、男女比率、勤続年数比率、学歴構成、専門性、保有スキル・資格、入社した経緯や動機、面接時の印象など、人に関する情報を様々な切り口で分析します(もちろん、これらの情報はまとめてデータベース化されていなければ分析が難しいため、後述するようなHR Techを利用します)。

そして、既存社員の属性情報と入社後のパフォーマンスや評価とを掛け合わせたり、退職者情報をも分析したりすることで、これから行おうとしている採用活動の質を上げることに貢献できます。

 

採用活動時の意思決定

既存社員の分析を行うと、そもそもこれからどのような人を採用するべきなのか、具体的な検討が容易になります。社内に足りていないスキルを補おうとしているのか、自社の強みをさらに伸ばせるような経験を持つ人材が欲しいのか、組織を活性化するために若手を採用するのか、などです。

そして、実際の採用活動時には、今まさに目の前で採用しようとしている人が、入社後に活躍するのかどうか、あるいは、短期間に離職するのかどうか、データ活用によって予測が可能になります。

したがって、ピープルアナリティクスを採用領域に活用することで、組織全体の生産性を高め、離職率を下げる効果が得られることになります。

 

配属先の決定・教育方法

晴れて新しいメンバーを採用できたら、次はどの部署に配属すればよいのか、どの上司と相性がよいのか、さらには、どのような教育を心掛ければよいのか、ピープルアナリティクスのツールによっては、そのような領域もカバーします。

専門性やスキル・資格も加味しながら、採用時に性格適性検査にしておけば、そのデータを活用して既存社員との相性を考慮して配属先を決めることができます。これは、異動を検討する際にも役立ちます。

また、放っておいても自律的に学習ができるのか、ある程度の支援が必要なのかは人の性格タイプによって異なりますので、個人ごとの特性も踏まえた上で入社後の適応をスムーズに行えるのもメリットです。

 

退職リスクの低下

人材の流動化が以前よりもはるかに高まった現代において、優秀な社員をいかに会社に引き留めておくかは、重要な課題です。ピープルアナリティクスは、退職防止にも貢献します。

過去の退職者情報を分析することで、例えば、特定の部署に配属されると離職率が相対的に高まることが判明します。業務上の理由から、どうしてもその部署に配属しなければならなくなった場合には、配属先との相性が高い従業員を配置したり、配属前に十分な説明をしたり、配属後に意識的にフォローしたりすることで、退職を防ぐことにつなげられる可能性があります。

 

また、最近では勤務状態や面談記録内容を分析することで、特定の従業員が退職を検討していることを予測するAIなども登場しています。

特に、管理しなければならない従業員の数が多い場合は、ピープルアナリティクスの活用が十分な成果をあげることにつながると言えます。

参考:セプテーニ・ホールディングス株式会社 DHRP
参考:ITmediaエンタープライズ:コールセンターの退職予備軍をAIで予測し、半年で離職者を半分にできた理由 (1/4)
参考書籍:HRテクノロジーで人事が変わる(労務行政研究所)

 

注意点または活用時に気をつけたい事

ピープルアナリティクスを導入する際に、理解しておくべき注意点がいくつかあります。

 

データをどのように使うかは人事次第

データがすべてを物語るわけではなく、現場の社員を動かしてくれるわけではありません。データをどのように解釈して、どのように改善や改革につなげるかはピープルアナリティクスの担当者にかかっています。また、データが必ずしも正確ではなかったり、データでは測れない部分もあったりするため、やはり最後は「人」の判断が重要になります。

例えば、AさんとBさんという2人の採用候補者がいたとして、分析結果によるとAさんの方が入社後の活躍確率が少しだけ高かったとします。しかし、面接を行った担当者が「Bさんの方が熱意を感じられる」と感じていた場合、どう判断すべきでしょうか? あくまでも、データでは汲み取れない部分も加味して意思決定を下す必要があります。したがって、ピープルアナリティクスは「意思決定の支援」をする位置づけで臨む必要があり、導入しても失敗に終わる可能性もあります。

参考:立教大学 経営学部 中原淳研究室 あなたの会社の「HRテック系サーベイ」が現場を1ミリも変えない理由!? : データによる組織開発が「コケる」5つの理由!?

 

データの取得・活用・取り扱い

2017年の改正個人情報保護法では、個人を特定できる情報(※)を取り扱う事業者すべてに対して適用されることになりました。したがって、例えば外部のコンサルティング会社から支援を受けるなど、ピープルアナリティクスを第三者に委託して人事情報提供する場合、「個人情報の取り扱い」に当たる可能性があるので、その点は注意しなければなりません。
氏名、生年月日、住所や、社員IDと所属部署など他の情報と併せることで個人を識別できる情報

業務上、第三者に社内の人事情報を提供する場合には、提供しようとしているデータが個人情報に該当するかどうか、そのデータは個人の識別情報を除いて第三者に提供する可能性など、利用目的を明示して取得したかどうかがポイントとなります。

参考:TOP COURT 2017年個人情報保護法改正の概要とは?4つのポイントを徹底解説

 

また、自社でピープルアナリティクスを導入し、採用活動や異動・配属、評価にデータを活用する場合、そもそも個人情報の利用目的の範囲内に収まっているのかどうかが問題となります。そして、取得時にそのような利用目的を明示していない場合は、当初の利用目的の範囲を超えるため、本人の同意が必要となります。

やや面倒にも見えますが、ピープルアナリティクスによる意思決定によって、良くも悪くも従業員側に影響が及ぶことを考えると、自社内の情報だからといって無条件に人事データを利用することは倫理的にも問題がありますし、個人情報の取得や活用、取り扱いに関する法令やガイドラインに従うことは企業の義務に当たると考えられます。

 

ピープルアナリティクス機能を提供するHR Techサービス

では、ピープルアナリティクスを自社に導入する上で、どのようなHR Techサービスが国内で展開されているか、ここでは株式会社トランス(TRANS.,inc.)によるTRANS.HRと、Tableau社のtableauをご紹介します。

TRANS.HR(トランスHR)

TRANS.HR 公式ページより

既存従業員のデータ管理から、分析、採用管理、適性診断、採用後のパフォーマンスや離職予測までを、一貫して行えるサービスです。ワンクリックで分析を行える手軽さや、AI(機械学習)による予測(入社後や配属後のパフォーマンス、離職予測など)が特徴です。

 

tableau

tableau 公式ページより

Excel上の人事情報を取り込み、わかりやすいビジュアライゼーションに落とし込んで意思決定を支援するのが特徴です。