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Candidate Experience(応募者体験)とは〜採用プロセスや結果に影響を与える応募者体験〜

応募者体験とは、採用プロセス全体において会社が行うコミュニケーションの中で、求職者が行う一連のやり取りのことを言います。応募者体験には、会社が発信する採用メッセージへの反応から、応募や選考の過程で経験する採用担当者とのメールや電話連絡、内定通知を受け取り無事に入社初日を終える所まで、様々なものが含まれます。

具体的には、次のようなものが応募者体験として挙げられます。

  • 求人広告への接触
  • 採用サイトの閲覧
  • インターネットまたはアナログを通じた応募プロセス
  • 履歴書や職務経歴書を提出するやり取り
  • 面接
  • 人事採用担当者や役員とのコミュニケーション
  • 採用に関する進捗の連絡通知
  • 待遇交渉
  • 内定通知
  • 入社初日までの対応(オンボーディング)

 

Candidate Experience(応募者体験)はなぜ重要か

Googleによると、採用プロセスの中でも、特に面接担当者が与える影響は大きく、Googleの採用に対する応募者の満足度を左右する最大の要因の一つと言っています。また、応募者が入社を決めるかどうかも面接担当者がカギを握っているのも面接担当者であるとしています。

さらに、応募から入社に至るまでの採用プロセス全体の時間的な長さ(期間)も、応募者体験の良し悪しに大きな影響を与えるとGoogleは考えています。Googleの調査によると、実際に応募者が不採用となってもその「80%」がGoogleへの応募を友人に勧めると回答しており、応募者体験を重要視している姿勢が伺えます。

Googleに限らず、応募者体験を改善し、より良いものにすることで、応募者が会社に対する信頼度を高めたり、好印象を得たりします。その結果、会社への入社意欲や入社後のエンゲージメントにつながることによって、応募者と会社のWin-Winな関係を築ける可能性があるため、応募者体験をおろそかにはできません。

 

Candidate Experience(応募者体験)という言葉が生まれた背景

以上を踏まえると、応募者体験は採用全体のあり方を考える上で重要な考え方と言えます。

もし、ある応募者が自社の他にも2社の選考を受けている場合、自社の応募者体験が他社よりも優れていれば、自社を選ぶ確率が非常に高くなります。

そうなると、採用市場において優位な立ち位置を得ることができ、採用難と呼ばれる時代の中で人材確保を他社よりもうまく出来ることになり、そこから口コミで自社の対応の良さが広がれば、さらに採用の可能性が広がることになります。

また、優れた応募者体験は、入社後のパフォーマンスに影響することもわかっています。自社に入った新しい人材を定着させ、活躍してもらうためにも、応募者体験がスムーズな入社とパフォーマンス発揮へと軌道に乗せる役割を果たします。

マーケティングやブランディングの分野では、「ユーザー体験(UX=User eXperience)」が優れていれば、高いリピート率や口コミにつながることから重要視されていますが、その採用分野への応用として「応募者体験」という言葉が生まれ、注目を集めるようになったと考えられます。

実際、応募者体験が注目を浴びていることは、IBMが応募者体験に特化した研究調査を最近実施したことがその表れかもしれません。調査によると、次のようなことが判明しました。

 

【「応募者体験」は応募以前にスタートする】

応募者の約半数(48%)は、応募以前に会社と何らかの関係を持っている(家族や友人が働いている、その会社のブランドや評判を知っている、商品やサービスのユーザーだった、など)
応募者の半数以上(55%)が、応募する会社に対して「ポジティブな印象」を持っていた
応募した会社に対してポジティブな印象を持った人は、不合格であっても80%がもう一度応募したいと思っていた

 

【「応募者体験」は他者への推薦や内定承諾、潜在的な売上に影響している】

内定・不合格に関わらず、応募者体験に満足した人は、そうでない人に比べて応募した企業を他者に推薦する割合が2倍以上だった(62%対28%)
応募者体験に満足した人の方が、38%以上も内定承諾する割合が高かった
応募者体験は拡散する―60%以上の人が応募者体験について家族や友人に話していた
応募者体験に満足した人は、そうでない人に比べて応募した企業の顧客になりたいと答えた割合が2倍以上だった(53%対25%)

 

Candidate Experience(応募者体験)の実務での応用

応募者体験が採用プロセスや結果に与える影響を踏まえた上で、実務にどのように活用したらよいかを考えたいと思います。

インターネット上の採用情報や会社情報を改善する
これから自社に応募しようという人は、それ以前に自社のどのような情報に接するでしょうか? 今では、気になった会社はすぐに検索して情報を得ようとします。スマホ対応や見た目、最新の情報への更新、事実を反映した魅力的なコンテンツなど、自社情報発信のあり方を改善します。

1.応募者に好意的な印象を与える

応募をした人に対して、自社がどのような対応を心がけているでしょうか?
応募者の気持ちを考えると、自分が働こうとしている会社からどのような反応があるかは、関心が非常に高いはずです。したがって、こちらからの「ファースト・コンタクト」がとても重要な意味を持ちます。電話やメールで、相手が好意を持ってくれるような一工夫、二工夫ができるかもしれません。

 

2.面接に関する事前情報を与える

日時や場所の他に、面接についての情報はどのような内容を伝えているでしょうか?
面接場所に到着した後の流れや所要時間、面接で確認すること、準備すべき資料なども併せて伝えることで、面接プロセスに対する満足感が向上します。

 

3.面接官に応募者体験の重要性について伝える

自社で面接をする人は、応募者に対してどのような態度で接しているでしょうか?
採用する側だからと上から目線や失礼な態度で臨んだり、目的不明の質問をする人もいます。最初に書いたように、応募者体験に面接官が与える影響は非常に大きいので、事前にマインドセットしておきましょう。

 

4.選好進捗や結果についてタイムリーに伝える

面接を受けた後は、結果がどうなるか気になるものです。進捗や結果については、可能な限り早く伝え、事情により遅くなるならば正直にそのように伝えます。

 

5.合否後のフォローを行う

合否のいずれにしても、応募者体験には大きな影響を与えています。合格者にはその後の流れやどのような点が評価されたのか、不合格者には基準を満たさなかったポイントや再応募の可能性、他の選択肢(他の職種や職場)の提示について、結果とともに伝えることで相手の印象は大きく変わります。それが、口コミとなって自社の情報が拡散することになります。

 

6.オンボーディング

採用プロセスで良い対応をしていても、肝心の勤務初日の印象が悪いと、せっかく高めてきたモチベーションも一気に下がってしまいます。逆に、良い対応によって一定の期待を相手に与えていることになるので、それに相応しい入社対応を心がけます。オンボーディングについて、詳細は過去のこちらの記事をご覧ください。

 

7.分析

採用の各ステップ間のかかった期間や応募者からの反応、作業時間について振り返りと分析を行い、反省点や改善点は次の採用に活かします。この時、HRテックを活用していると、採用に関するデータ分析と活用がやりやすくなります。

 

応募者ジャーニーマップ

応募者体験を見直すためのツールとして「応募者ジャーニーマップ」が挙げられます。

自社がどのような採用情報を展開していて、具体的な採用プロセスをどうしているか、各ステップにかかっている時間はどれくらいかを可視化する有効なツールです。実際は絵でなくとも構いませんので、自社の採用について書き出して全体像を把握することが重要です。

「応募者ジャーニーマップ」を参考に、国内外の事例を紹介したいと思います。

 

企業事例

ヒルトン ― 採用までの日数を「42日」から、わずか「5日」に!

世界中に展開する高級ホテルグループ・ヒルトンは、採用までにかかる日数が42日と、業界平均の2倍という散々な状態でした。

優秀な人材はスピードに対して敏感である一方、業務の性質上、面接は不可欠かつ重要なステップでした。この非効率さを解決するため、ヒルトンはオンライン面接を導入しました。ただし、採用担当者がハンズオンで面接に臨むのではなく、応募者が好きなときにログインして、あらかじめ設定した質問について回答を行う動画をアップする手法を採用しました。

https://business.linkedin.com/talent-solutions/blog/recruiting-strategy/2018/how-4-companies-reduced-time-to-hire より)

これによって、複数の応募者を同時併行で評価可能になり、飛躍的な時短につながりました。また、AIを搭載したクラウド上の採用プラットフォームにより、動画で話している応募者のジェスチャーや表情など、ホテル業務で重要な要素についても評価を行うことで、結果判断のスピードが上がりました。

 

三幸製菓 ー あえて応募者数を減らし、マッチング精度を高める!

三幸製菓は、新潟市に本社がある業界第2位のおせんべいメーカーです。食品やお菓子は大学新卒の就活では人気の業界で、三幸製菓でも10~20人の採用に対して、多い時には1万人以上のエントリーがありました。
それだけ多くのエントリーがあれば大人気企業として嬉しい悲鳴が上がりそうですが、最終的に内定を出しても実はミスマッチが発生して内定辞退や離職が起きてしまったり、応募があった大量の人へお断りのメッセージを送るのに非常に時間がかかったりと、採用に非効率な面があったのが事実でした。

採用について見直しを行い、まず、2013年にナビサイトの利用を止めた結果エントリーが4分の1に減り、その後400人程度まで減少しています。その過程で、「おせんべい採用」や「日本一短いES」などユニークな採用手法を考案して、マッチングの質を高めることに注力しました。同時に、オンライン面談を導入するなど、HR Techを採用プロセスに導入することで効率化を実現しています。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/05-jirei4-shibata.pdf より抜粋)

 

まとめ

以上、Candidate Experience(応募者体験)について最近の調査研究や事例を交えながら概要を紹介しました。応募者体験が採用全体について与える影響は大きく、採用担当者にとっては非常に重要なテーマであることがご理解いただけたかと思います。

応募者体験は、その時行っている採用そのものにも影響を与えますが、それが次の採用にとっても意味があります。例えば、自社の採用プロセスが評価されれば、口コミ等でさらに応募者が増える可能性があります。また、優秀な人材の採用について他社と競合した際に自社が選ばれる確率が高くなります。そして、自社が提供するコミュニケーションのスピード感や質にふさわしい人材が採用されるようになり、結果として「採用の質」が向上することになります。

応募者体験が、自社の採用と、ひいては優秀な人材確保による事業展開につながることを意識し、効率化につながるものは大胆に取り入れつつ、長期的な視野にもとづいて採用活動に臨むことがこれからの採用担当者に求められるのではないでしょうか。

 

【参考サイト】

Google re:Work | 有意義な応募者体験を提供する
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/hiring-shape-the-candidate-experience/steps/introduction/

Recruiting.com | The Case for Providing a Positive Candidate Experience
https://www.recruiting.com/blog/the-case-for-providing-a-positive-candidate-experience/

IBM Smarter Workforce Institute | The far-reaching impact of candidate experience
https://www.ibm.com/downloads/cas/YMOARJJG

LinkedIn | How Hilton, Google, and More Have Dramatically Reduced Their Time to Hire
https://business.linkedin.com/talent-solutions/blog/recruiting-strategy/2018/how-4-companies-reduced-time-to-hire

三幸製菓の採用/人材育成における取組事例
https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20181030/resume/05-jirei4-shibata.pdf