中国のインターネット企業は世界を席巻している。テクノロジーを活用した新しいビジネスはアメリカから生まれていた時代から、今や中国から生み出される時代に。
中国のHR Tech市場規模は世界で第5位と今後も成長が期待される市場だ。
今回は、なぜ中国でHR Techが注目されているのかに触れた後、中国で躍進するHR Techスタートアップについて解説する。
なぜ、ここまで中国でHR Techが注目され、普及しているのであろうか。その理由は①人材サービス産業の拡大②インターネット、スマートフォンの普及③中国の法や規制の大きく3つある。
現在、中国では、人材サービス産業が大きくなってきている。2015年~2019年にかけて中国の人材サービス産業の規模は日本円にして約16兆円から約34兆円になると見込まれており、年平均成長額は238.84億元、平均成長は16.4%となっている。
人材サービス産業拡大の要因としては、中国経済は世界各国のなかでも成長が著しく、大手多国籍企業や外資系企業と競争をしているため、企業は優秀な学生を求めている。
中国インターネットネットワーク情報センター(CNNIC)によると、2016年12月時点でのインターネットユーザー数は73.1億人で、年間約4200万人増えている。インターネット普及率は53.2%で、2015年と比べて、2.9ポイントアップしている。
また、スマートフォン利用者も2014年の5億人から2017年には7億人と増加している。このように、インターネットやスマートフォンが普及することで、採用活動においてSNS活用も増えている。
中国では、社会保険料の納税率は各市や省といった各地方政府ごとに異なっているため、企業が国内全域で数多くのオフィスを持っている場合、短期間ですべての従業員に対する社会保障などの処理をする必要がある。
人事担当者の認識不足により、社会保険料を誤って徴収され、従業員がストライキを起こしたという事例も発生している。
給与計算に関して、これらの社会保障費の算定や申請が面倒なこともあり、外部委託している企業も多い。外部委託費用は従業員1人あたり約4000円かかるため、自社内でテクノロジーを導入することで解決する企業が増えている。
世界のHR Tech市場規模では世界で第5位に位置している中国。市場規模を比較すると日本の約3倍だ。日本ではHR Techに特化のカンファレンスというものは開催されていないが、中国で開催されるHR Tech関連イベントが近年増えてきている。
中国上海国際会議場で2日間かけて行われた、HR Techのイベント。アメリカ、ヨーロッパ、中国から3500人以上の参加者、30人以上のスピーカー、ADP、Oracle、SAP、Da Bang、BeiSenなどの最新技術を提供している70社以上の企業が参加した。カンファレンスでは、HRやHR Tech、リーダーシップ、先行研究などの講演が行われた。
中国で有名なHR Techメディア「HR Tech China」が主催するHR Techサミット。HR Tech関係者約1400人が一堂に会した。
イベントでは、HR TechChina Geek Awardsの表彰もあり、中国国内で優れたHR Techサービスを提供した企業、機関に7つの賞が贈られた。
(HR Tech China Geek Awards 受賞企業)
彩程设计(my color way)は、2008年に沈学良 氏により創業された。創業者の沈学良 氏は2001年に大学卒業後、2003年に半導体や集積回路を製造している「深圳新概念科技发展有限公司」に入社し、2007年まで4年間在籍した。その間に取締役も経験している。
その後「北京塞尔新概念有限公司」でプロダクトディレクターを1年間務めたのち、「彩程设计」を創業した。
彩程设计は、Towerを筆頭に、知人、DesignBoard、Teamcolaといった様々なHR Techサービスを提供している。四川省成都に本社を置き、現在、北京、杭州、上海、広州、深圳の5つの都市に支店を構えている。
※DesingBoardとTeamcolaについては、公式サイトはログイン画面しか表示されず、新規登録をすることは不可能な状態である。ただし、利用規約は残っているので過去に登録したユーザーのみ利用可能な状態であると考えられる。サービスが終了しているかどうかは、公式サイトでは確認できなかった。
彩程设计の注目ポイントは、複数のサービスの利用者数を着実に伸ばしている点と世界的に有名なVCから資金調達をしている点の2つある。メインサービス「Tower」の利用者数は70万人、「知人」は1,000社に導入されている。
同時に複数のサービスを持ち、ユーザー数を確実に伸ばしており、Towerは2012年にサービス提供が始まったが、現在もなお、1週間で約400件のダウンロードと、確実にシェアを広げている。
また彩程设计は、Appleやグーグル、YouTubeやYahoo!などへの投資で有名なアメリカのベンチャーキャピタル「Sequoia Capital」から、2013年1月に数百万ドルの資金調達している。
「Sequoia Capital China」は中国の大手IT企業である「アリババ」や、世界シェアNo.1のドローンメーカー「DJI」などにも投資しており、「彩程设计」も大きな成長が見込まれる。
IT桔子によると、「Seqioia Capital」の他にも、2016年には今日头条、晨兴资本から2000万元、日本円にして約3億円の資金調達をしている。
2-2.サービス概要
今回は彩程设计が提供するHR Techサービス「Tower」と「知人」の2つを紹介する。「Tower」は現在、中国No1オンラインチームコラボレーションツールと言われており、「知人」は中国最大の家庭用製品およびサービス取引プラットフォームを提供している「TOP TECH」にも導入されている。
Towerを使うことにより、彩程设计は、プロジェクト全体の流れを全員が把握し、チャットで素早い返信ができ、チームの生産性が上がる。現在、32業種70万人以上の人々が利用している。
最大100人まで参加可能なオンラインビデオや、無制限のストレージ、メンバーのタスクとプロジェクト全体の進捗状況を分析する機能などが特徴だ。
(チーム内チャットやタスク管理画面)
PC版、スマホ版どちらもアプリがあるため、いつでもどこでも確認することができる。
基本の利用料は無料で、必要であれば有料版(10万円/年・チーム)を選択するフリーミアム方式を取っている。有料版では、プロジェクトの進捗管理やメンバーの遅延管理、最大100人参加可能なオンラインビデオの利用が可能。
無料版 | Pro | |
無料 | 費用 | 10万円/年・チーム |
無制限 | プロジェクト数 | 無制限 |
最大4つ | メンバーグループ数 | 無制限 |
最大4つ | プロジェクトグループ数 | 無制限 |
最大10GB | ストレージ | 無制限 |
1年間の自動通知機能 | サポート | 期限なしの自動通知 |
電子メール、作業指示書でのサポート | 電話,Live,Chatでのサポート | |
その他の機能 | オープンAI | |
ズームマルチプレイヤービデオ会議 | ||
プロジェクトの進捗状況 | ||
メンバー遅延率統計 |
「知人」は、2015年に提供が開始された、入社手続きや勤怠管理、社会保障費の支払いなど、スタッフ管理関係のツールだ。
中国は、地域にとって納税率が異なるため、複数の地域にオフィスを持っている場合、短期間ですべての従業員に対する社会保障などの処理をする必要がある。
これまでは、その処理に時間とコストがかかってきたが、「知人」を使うことで、勤怠管理だけでなく、自動給与計算や、人件費の分析と(支店との)比較などできるようになる。
(スタッフの入社日や学歴などの管理画面)
現在はマーケットシェアを確保するために無料でサービスを提供しているが、一定の市場を確保したところで、「Tower」のように無料版・有料版に分け、フリーミアム方式を取るのではないかと考えられる。
(人件費や離職率などを確認できる)
現在、1,000社以上が「知人」を導入しており、アメリカの老舗ベンチャーキャピタル「Jingwei Venture」も導入している。
今回は中国のHR Tech市場に注目し、盛り上がりの背景と、HR Techスタートアップ「彩程设计」について紹介した。現状では中国のユニコーン企業は、電子商取引(EC)、Fintechやシェアリングエコノミー等のB2C分野に集中している。
しかしながら、今回紹介した「彩程设计(my color way)」は、世界最大のベンチャーキャピタル「Sequoia Capital」から出資を受けており、中国のクラウド型タレントマネジメントサービス大手「Beisen」も「Sequoia Capital」から同様に出資を受けていて、中国のHR Tech市場の可能性を感じる。
HR Tech分野ではユニーコーンと呼べる企業は誕生していないが、新しいコンセプト・ビジネスモデルでの企業が中国から生まれてくる可能性は十分にある。「彩程设计」をはじめとして中国のHR Techスタートアップシーンについては今後も注視したい。