HR Techとは、人事を意味する「HR:Human Resources」と、技術を意味する「Technology」を組み合わせた造語であり、Human Resources Technologyの略です。
HR Techで用いられる技術は、クラウド、SNS、AI、ビッグデータ、モバイルなど多岐に渡ります。これらの技術を活用し、人と組織のパフォーマンスを最大化することの総称をHR Techと呼びます。
HR Tech業界でよく使われる用語はこちらをチェック
https://hrtechnavi.jp/terms/terms/
世界的なHR Techのカンファレンスである、HR Technology Conference & Expositionは、アメリカ・ラスベガスで始まり、今年で22回目を迎えました。この20年ほどでHR Techが盛り上がりを見せているようにも見えますが、HRソフトウェア市場を見ると、もっと前から変革が始まっています。
デロイトトーマツが2018年に出した「劇的に変化するHRテクノロジー2018」では、1970年〜現在までの潮流が下記のようにまとめてられています。
・1970年~1980年代
HRソフトウェアベンダーは『記録』のためのシステム構築に重きを置いており、企業はSAPなどの業務用HRソフトを購入し、他のERPシステムとの統合を始めた。
・1990年~2000年初頭
採用や研修、パフォーマンスマネジメントを支援する機能の開発が進み、その頃出現してきたタレントマネジメントシステムと統合されていった。
・2010年頃
『記録』のための古い基幹システムから、従業員が活用可能なシステム構築を行い、クラウドへと移行を始めた。
・現在
チーム、個人、ネットワーク中心に設計されたテクノロジーによって、従業員の生産性向上を支援するツールが求められている。
上記からも分かる通り、今日では、モバイルやAI、クラウドなどのテクノロジーの発展はめざましく、また日本の働き方改革に代表されるように、世界的に現代人の働き方・生き方も多様化しています。これらが要因となり、第4段階目の変革期に突入しています。
そんなHR Techがなぜ日本で注目されているかというと、少子高齢化による人手不足や、働き方の多様化が挙げられます。特に労働人口の減少は影響が大きく、人材の確保と、業務の効率化が企業に求められています。
また昨今の働き方改革でも分かる通り、日本人の働き方・生き方も様変わりしています。最近では、副業・複業を認める企業や、オフィスには出社せず、遠隔地で働く(リモートワーク)人も増えてきました。
そうした背景から、これまでような従業員の一括管理ではなく、データを活用して、各々を管理する方法として、HR Techが注目されています。また、転職や副業に対するハードルも低くなってきたこともあり、企業の雇用流動性が高くなってきています。
日本企業の象徴でもあった「終身雇用」「新卒一括採用」「年功序列」が崩壊しようとしています。世界的企業でもあるTOYOTAの豊田社長が、「終身雇用は難しい」、経団連のトップである中西会長も「終身雇用を続けるのは難しいかもしれない」といった趣旨の発言している通り、終身雇用が当たり前だったかつての価値観は崩壊し始めています。
トヨタ社長の”終身雇用発言”で透けた本音 (PRESIDENT Online 2019/6)
https://president.jp/articles/-/28850
また、大手企業の採用面接の解禁日などを定めた指針を2021年春入社の学生から廃止することを経団連が2018年に発表しました。IT企業のYahoo!などでは、数年前から通年採用を始めており、富士通も通年採用を始めると宣言しました。
新卒一括採用、転機に 経団連が就活ルール廃止発表(日本経済新聞 2018/10)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36281670Z01C18A0MM8000/
さらに、世界的に見ても優秀な人材の獲得合戦は激しく、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)のHuweiでは、博士号を持つ新卒者に対し年収約3100万を提示しています。
ファーウェイ、新卒に3000万円 CEO「世界から募集」(日本経済新聞 2019/7)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47777300V20C19A7FFE000/
また、テクノロジー面の変化もHR Techの盛り上がりに関連しています。
・人工知能(AI)
AIが人の仕事を奪うと心配されている反面、生産性の向上、人的ミスの削減などを考えると、AIが人々の働き方を変えることは間違いありません。人間のように、自ら理解・推論・学習するソリューションや、従業員のポリシーに関する知性が必要なソリューション、また候補者のスクリーニングを効果的に実行する場合においても、AIはHRの世界を変えるような準備が整っています。
・ビッグデータとアナリティクス
様々な情報から、従業員の退職予測などもできてしまいます。また採用においては、本人が提出する履歴書だけでなく、ソーシャルメディアなどの行動も評価することができます。データを活用することによって、人間のバイアスがかかりにくくなることが期待されます。
・ソーシャル
現在では、人材開発においても活用されています。また社内コミュニケーション、従業員エンゲージメントの向上にも活用されています。社内だけのソーシャルメディアのようなWebサイトから、Slackのようなチャットアプリなど、ソーシャルによって、場所や文化など、従業員間のギャップを埋めることができています。
・クラウドコンピューティング
大量の人事に関するデータをクラウド上で管理する組織も増えています。従業員が外出中であっても、ファイルにアクセスすることができ、効率的に仕事をすることができます。こうしたSaaSと呼ばれるクラウドで提供されるソフトウェアが増えてきました。
・モバイル
ミレニアル世代においては、スマートフォンを使った就職活動もしています。スマートフォンで情報をチェックしたり、応募したり、Web面談までカバーするようになってきました。
参考:What Is HR Technology?(HR Technologist)
HR Tech市場がどれぐらい盛り上がってるのかというと、ミック経済研究所の「HRTechクラウド市場の実態と展望2018年度版」によると、国内のHR Techクラウド市場規模は、2019年度には355.0億円、2023年度には1000億円以上の市場規模になると予測しています。
また、主要国の市場規模を見ると、CB Insightsによると、HR Tech市場規模約140億ドルのうち、アメリカが62%、次にイギリスが6%、インドが4%、カナダが4%、中国が3%と続いています。
海外の主要なHR Tech企業を知りたい方はこちらをチェック
https://hrtechnavi.jp/overseas/market-size-and-service/
さらに、国内のHR Techに関するスタートアップ・ベンチャーの資金調達を見ると、資金調達を実施したベンチャー 企業は34社、案件数は46件、未公開金額を除く調達総額合計は、約320億円でした。
https://hrtechnavi.jp/news/funding-2018/
また、国内のHR Techベンチャーのニュース数を見ると、HR Techナビでリサーチを開始した2017年11月の11件と比べて、先月のニュース数は110件と、10倍にまでなっています。
HR Techナビで作成した、HR Tech業界カオスマップには、400近いサービスを掲載しており、こちらも初期作成時(2018年3月時点で180サービス掲載)に比べ、200以上のサービスがリリースされています。
また、CHROという経理者目線で人事戦略を考えることのできる人材を登用する日本の企業も増えてきました。CHROは、CEO、COO、CFO、CTOなどど並び、企業の人事戦略を経営目線で考えます。これまでの人事のトップ(人事部長)とは違い、取締役として参画することがほとんどです。
上記のデータなどからわかる通り、近年急激に日本だけでなく、世界においてもHR Techが注目されていることが分かります。