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BtoA中村亮一氏が考えるHRDXとは【HR Techチャンネルレポート】前編

「人と組織をアップデート」をテーマに、HR Tech業界の今を伝えるべくスタートした動画セミナー「HR Techチャンネル」。業界の最新ニュースや最前線で活躍するゲストを迎えての対談をお届けしていきます。

今回のゲストは、株式会社日立製作所のピープルアナリティクス専門部門立ち上げ、ソフトバンク株式会社のHR Tech・ピープルアナリティクス導入を経て、現在は株式会社BtoAで活躍する中村亮一さん。「HRのデジタルトランスフォーメーション」について、基本的な考え方、導入の心がまえ、陥りやすい失敗例までざっくばらんにお話しいただきました(前後編のうち前編)。

ゲスト:
中村亮一氏
株式会社BtoA(https://betterengagee.com/) VP of Business Development
大学卒業後、日立製作所に入社し、人事総務を担当。2017年4月よりピープルアナリティクス専門部門を立上げ、心理学を用いたエンゲージメント研究に従事。2018年10月よりソフトバンクにてHR Tech・ピープルアナリティクスの社内導入など、人事部門のデジタルトランスフォーメーション推進を担当。2020年3月、エンプロイー・エクスペリエンス・プラットフォーム『BetterEngage』を提供する株式会社BtoAに入社。

聞き手:
櫻木 諒太
HR Techナビ編集長/一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)事務局長
2010年より中小企業支援機関で販路開拓支援に従事。2015年から一般社団法人中小企業情報化協議会(現在の「JDX」)でICTを活用した地域活性化や中小・ベンチャー企業の支援を担当。2018年からHR Techナビの立ち上げから運営、2030年のHRを見据えたカンファレンスJapan HR Tech Conferenceの事務局などをつとめる。

デジタルトランスフォーメーションとは何か

最初に、デジタルトランスフォーメーションとは何かということからお話します。デジタライゼーションと混同されがちなのですが、デジタライゼーションが「カメラにWi-Fiが付く」「PCにチャットbotが付く」のような機能の拡充による効率化を意味するのに対し、デジタルトランスフォーメーションとは「自動車がシェアリングされる」「通勤せずオンラインで仕事ができる」などによって、経営や生活の在り方が変革することを言います。

近年のグローバル化、働き方改革、労働人口の減少など外部環境の変化に伴って、技術革新が進行する中、人事分野でもデータ・ドリブン戦略が重要視されるようになりました。ここ数年で、多くの会社がリアルタイムデータ可視化やピープルアナリティクスに取り組んでいます

――ここへきて変革が進んでいる背景には、どのようなことが考えられるのでしょうか。

例えば、オンラインミーティングは、2000年頃から技術発展していたものの、社会への浸透は進んでいませんでした。それが今、新型コロナウイルスの影響でテレワークを余儀なくされ、急速に利用が拡大していますよね。リスクを認識し、やらざるを得ない状況に追い込まれることが、変革のきっかけになり得るのだと思います

僕はデジタルのことばかり言っている人と思われがちなのですが(笑)、決してアナログ(勘や経験)を不要と言っているわけではありません。現状アナログが強い傾向にある人事部門にデジタルを取り入れ、両者のバランスを整えることが大切です。

――デジタルとアナログ、それぞれを取り入れるべき具体例を挙げていただけますか。

例えば人員の最適配置において、異動候補者の洗い出しはデジタルのほうが満遍なく行えますが、最終的に本人に異動を告げる時は「データがそうなっているから」では納得できませんよね。そこはきちんと人と向き合うアナログ対応が大切だと思います。

ステークホルダーのパフォーマンスを上げるHRDXの始め方とは

次に、デジタルトランスフォーメーションの始め方についてお話します。人事戦略とは、事業戦略からカスケードダウンしていくものであり、目標達成のために必要なことをデータで可視化、解析すると、その結果に基づくアクションから改善が生まれます。

しかしそれを始めようとしても、このような「壁」が立ちはだかることがあります。これらの問題について具体的にお話していきましょう。

まず「使えるデータが少ない・使える人がいない」について。部門毎で違うシステムを使っている、データを扱える人が限られているなどの原因で、担当者・システム・データが分散しているという問題です。その結果として発生するのが「人事データの『三大疾病』」。これは引用元のページが参考になるので見てみてください。

参考:ヤフーが1年がかりで奮闘した「人事データの“三大疾病”」
https://mag.smarthr.jp/guide/information/detail/hrcon2019_03/

次に「課題・目的が定まらない」。タレントマネジメントデータは人事管理データとは別物で、対象によってアクションや集めるべきデータの種類が異なります。

まず、トップにはサクセッション、ミドルにはマネージャー育成、ボトムには若手の底上げというように、対象によってアクションを変える必要があります

また、例えば経歴データに関して、人の異動などに関する発令情報を積み上げたデータはきれいに残っていることが多いですが、それよりも、そこで何をしていたのか、何を身に着けたのかといった職務内容の積み上げデータのほうが、タレントマネジメントを行う上では重要です。

そして「どんなサービスを使えばいいか」については、自社の課題・目的に合わせて選んでほしいということです。また、サービス提供事業者側も、人事が何を求めているのかを理解して作ってもらいたいですよね。機能がいいと聞いて導入しても後々使いづらく感じることもありますので。人事とサービス提供事業者それぞれがリテラシーを上げていかなければならないと思います。

参考:HR Techカオスマップ
https://hrtechnavi.jp/lab/hrtech-chaosmap/

最後に「誰のためにやるのか」。人事の活動はすべて会社・組織・社員のパフォーマンスを上げるためであり、どんなに良い施策やサービスを導入しても、それらステークホルダーを「シラけさせてしまっては終わり」です。ステークホルダーをシラけさせないことが、HRのデジタルトランスフォーメーションを始めるにあたり大切なことだと考えます。

日立・ソフトバンク時代の取り組み

――ありがとうございました。ここから中村さんの経歴に基づくお話も伺いたいと思います。日立時代にピープルアナリティクス部門を立ち上げられていますが、そのきっかけを教えていただけますか。

私は採用担当だったのですが、ある時、会社の方向性が前年とは変わっているにも関わらず、同じ要件で採用の合否を決めてしまっていることに疑問を持ちました。そこで社内にあるいろいろなデータを活用できないかと思い立ち、既存社員のスキルを可視化して、今後の方向性と違うタイプの人が多いことを見せて、初めて「変えなければいけない」と判断してもらえました。そこから面接の仕方や人材要件を変えていったのですが、振り返るとデータでちゃんと見せることが大事でしたね。

――データを使うと、「今年はいい若手が多いね」とかではなく、「今年はこういう傾向のある学生を採用しよう」といった客観的目線でのディスカッションが進んでいくイメージでしょうか。

そうですね。出てきたデータと既存社員を照らし合わせてタイプ分けし、タイプ毎のハイパフォーマーへのインタビューを積み上げて、人材要件を設定していくということです。

――それから、ソフトバンク時代にデジタルトランスフォーメーション化を推進されていますが、どのように行っていったのですか。

ソフトバンクでは、社長の宮内さん(ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 執行役員兼CEO 宮内謙氏)がポジティブにデジタル化を推進してくれたおかげで、スムーズに進みました。まずどういったデータが必要かという議論から始まり、適性検査などさまざまな検査を全社員に実施、大学教授の協力を得てパルスサーベイツールの開発と導入、データレイクプロジェクトとして職種の整理なども行いました。

――パルスサーベイツールは既存のものもたくさんありますが、なぜ自社開発にされたのですか? 既存のツールも検討しましたが、ビジネスシーンに特化したものばかりで……というのは、僕の経験上、社員にとっては会社が全てでは決してなくて、生活面が充実しないと仕事もうまくいかないし、睡眠が足りていないのに他のことができるわけないし、といった感覚がありました。それをうまく表現できているものが当時なかったので、自分たちで作ることにしたのです。(後編に続く)

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