近年注目を浴びている「組織エンゲージメント」。エンゲージメント向上に寄与する人事施策や人事制度の立案・運用に力を入れる企業も増えてきている。
エンゲージメント向上施策の根幹は組織文化だ。創業メンバーが中心のときはお互い言葉にしなくても理解できているものだが、従業員が増えてくると明文化する必要がでてくる。
「旅で世界を、もっと素敵に」をビジョンに、「イベント」「メディア」「プロダクト」「キャリア」「マーケティング」の5つの事業を手がけるTABIPPO。
ビジョンを体現するためのユニークな働き方やルールや制度設計に取り組んでいる企業だ。
これらを実現するために、エンゲージメント経営実践のプラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」を使っている。
今回は株式会社TABIPPOでエンゲージメント向上のための制度設計を担っている浦川氏と、株式会社スタメンでカスタマーサクセスを務める庄司氏に話を伺った。
浦川氏は人事専任ではない。次の3つの業務を兼務している。
1.TABIPPOが有する全国の学生ネットワークをマネジメントする学生支部の業務
2.株式会社アプリとの共同プロジェクト「旅人採用」という人材紹介事業
3.TUNAGの運用、チームメンバーの採用や人事評価制度の設計
TABIPPO社では「人事部」は存在せず、一般の企業でいう管理部門に該当する仕事はプロジェクトチームをつくり運営をしていくことが多いという。
社員はインターン生を含めて30名になろうとしているところだ。
社内人事制度や評価制度のプロジェクトチーム発足のきっかけを次のように語る。
「TABIPPOは上司や部下というのが存在しないフラット組織です。しかしながらフラットな組織としての評価のあり方をどうすべきかということが整っていませんでした。明文化されていないものを明文化し、評価制度を整えていこうというのがプロジェクトチーム発足のきっかけでした。」(浦川氏)
人事評価制度を整えることから発足したプロジェクトチームは、社内の評価を整えるだけではなく新しい組織のロールモデルや働き方として社外にも発信していきたいという想いもあったと続けて浦川氏は語ってくれた。
実際にTABIPPO社のWebサイトで社内制度の一部を公開している。
組織エンゲージメントを高めるために積極的に取り組んでいるように見える同社だが、次のような課題があった。
「社内制度のアイデアを出して実行はしていましたが、ただうまくいかない施策は都度改善をしていて安定した運用という点では課題がありました。社内人事施策の利用状況の可視化と、先ほどの評価についてもそうですが社内制度を明文化したい考えていました。」(浦川氏)
TUNAG導入の経緯について聞くと
「弊社代表が親しくしている方にTUNAGのことを教えていただいたことがきっかけです。エンゲージメントの可視化という点ではパルスサーベイのツールなどもチェックしてましたが、優先度として人事制度・人事施策の可視化やニーズの把握が高く、様々な利用用途ができそうなTUNAGを導入しました。」(浦川氏)
また、複数の業務を担う浦川氏だからこそ言える意見が聞けた。
「HR・人事業界ではエンゲージメントについて取り上げられる機会が増えてきていますが、一般的な社員はほとんど知らないと思います。このような状態でエンゲージメント向上のツールを導入してもうまくいかないのではないかと思っていますし、弊社のようなステージの会社だとエンゲージメント向上に注力するよりも事業を伸ばそう、というのが正直なところです。
ただし、日々の行動を可視化させてログを溜めていくことによって、後からデータを見て『これをやったらなんかよかったよね』と振り返りができることは大切ですよね。
そういう事例の積み重ねによって、弊社としてのエンゲージメントを定義して全社で共通認識をもった上で、指標など作っていけるいいなと思っています。」(浦川氏)
では、TUNAGをどのように活用しているのだろうか?
TABIPPO社では、企業として形成していきたい文化、ゴールを実現するためにTUNAGを活用している。
目指している文化と社内文化醸成のために運用している制度を紹介する。
1.企業理念の浸透と賞賛文化の形成
TABIPPO社が掲げる4つの行動指針に沿った行動をした人に対して褒めるのがコンパスカード。
日々チームのために動いて感謝の気持ちを伝えるのがサンクスカード。
これらのやりとりをTUNAG上で可視化することで、全てのメンバーが知ることができ、行動理念の浸透や賞賛文化の形成に役立てている。
2.360度評価を用いた月間MVP制度
毎月MVP一人と組織にとって価値のある働きをしてくれた二人を選出。メンバーのモチベーション向上を目的として、TUNAG上で発表し、社内の文化をストックしている。
3.社内の情報共有(FYI)
もともとFacebookグループで参考情報を共有していたものをTUNAGへ移行。TUNAGで運用するメリットは、しっかりとログを残せること。さらに、誰がどんな情報を何度、共有していくれているか一目でわかる点だ。
どの制度についてもTUNAGを利用しなくてもできるが、TUNAGでやるからこそできるようになることがある。
制度の可視化はもちろんだが制度を運用フェーズに乗せるためのインセンティブ設計だ。
「100ポイント溜まったら1000円分のAmazonギフト券に交換できるという基本レートを設定しています。TUNAG上で運用しているプロジェクトごとにポイントを割り振っています。たとえばティール組織の勉強プロジェクトで参考情報を共有したら1ポイントというように。」(浦川氏)
会社として望ましい行動に対してポイントを付与できるため社内文化の醸成にも役に立つ。
業務に関するところでもTABIPPO社では旅人採用事業において旅人を紹介したらポイントを付与するなど事業領域でのTUNAGの活用にもトライしている。
TUNAGで集約することでのメリットも表れている。
「それぞれの制度とインセンティブを紐づけると集計面で負荷が生じます。しかしTUNAG上で運用することでポイントという形でインセンティブを与えたらよいとなるのでその点は非常に楽ですし、社員も好きなタイミングでギフト券に交換できることができるので好評です。」(浦川氏)
複数の会社の導入コンサルタントを担当している庄司氏は今のTABIPPO社の状況について語る。
「基本的にサンクスカードやコンパスカードのような、お互いで褒め合うもの、コミュニケーションが取れるものはTUNAGを利用いただくと効果的です。制度に対するインセンティブ設計を丁寧に実施していて、組織として目指すべき方向を考えるきっかけを作っているのがTABIPPO社のすごいところです」(庄司氏)
社内においてTUNAGをインフラとした人事制度がうまく運用できているTABIPPO社、しかし浦川氏によると導入において社内同意を得るのには苦労したという。
「弊社は人事部もありませんしフラットな組織です。社長や先輩社員が承認をしたから導入できるという会社ではありません。全員に説明できるようまずは自分自身TUNAGについて詳しく知ることが大切だと思いスタメン社の営業の方に何度も来ていただきました。」(浦川氏)
営業とのミーティングを浦川氏だけで完結させるのではなく、事前に興味がある社員が同席できるようにミーティングの案内も流すなど工夫をしていた。
「本人が納得できないことはどうしても後から私に言われることが多かったので、疑問を解消するための場を設けました。すると13人の社員中10人が来てくれました。
やはりみんな新しいサービスや組織開発には興味を持っていたようでした。」(浦川氏)
その後はミーティングの内容やTUNAGのメリットや懸念点をまとめ、Slack上で共有し少しずつ同意を得ていった。社内の反応について次のようにあったという。
「制度の可視化は好評でした。しかしながら、TUNAGの使い方は幅が広く重複するサービスは移行するのか?またそのタイミングはいつなのか?という点が懸念点として上がっていました。」(浦川氏)
懸念点についてはどのように解消していったのかというと
「今使っているサービスをTUNAGヘ代替する前提で使わないほうがいい、導入しやすいところからはじめていったほうがいいというアドバイスが大きかったです。TUNAGを使ってみてTUNAGを使った方が効果的にできるというものは変えていけるので相談して決めていきましょうというスタメン社からの声は心強かったです。」(浦川氏)
導入のプロジェクト中は、打ち合わせ5回ほどで制度設計から運用フェーズまでわずか1ヶ月。いまTABIPPO社でのTUNAGの運用状況が良好な決め手があった。
「『旅祭り』という大きなイベントがあり、そのイベントのために地方にいるインターン生含めてほぼ全員集まっているときにキックオフの説明会をできたのが何よりもよかったです。リモートワークが多かったり、毎日だれかしらが海外に旅をしているような会社なので、こういう全員集合の場を有効活用しました。」(浦川氏)
運用前からの社内への巻き込みや説明責任を果たす浦川氏の動きやスタメン社の的確なアドバイスがあったことが導入時の苦労を乗り越えられたのだろう。
2018年10月現在でTABIPPO社ではTUNAGを導入して1ヶ月経っている、具体的にどのような効果が表れているのか聞いてみた。
「もともとSlackで褒め合う文化はありましたが、誰が褒めてる回数が多い、誰が評価されているかという所までは定量的に把握できませんでした。。TUNAG上でやりとりしたものが全部数字でも全員把握できるになりました。そのことでサンクスカードやFIYのアクションも増えてきています。またTUNAGを導入したことで明文化されていない制度などを明文化していこうという動きも活発になってきました。」(浦川氏)
明文化するという動きの具体例について聞くと、
「ランチマッピングがかなり活発です。誰がいつどこのランチに行ったのかわかったり美味しいお店がどこなのかわかります。こちらも可視化されているのでコミュニケーションが生まれるきっかけにもなります。制度は誰でも発案していいことになっているので他にもネタ的なものも含めてどんどんでてきています。また、TUNAGは情報のストックと相性が良く、かなり気合いをいれて写真を撮っている全社合宿のときの集合写真やイベントの写真など会社の成長過程を記録できるのも気に入っています。」(浦川氏)
筆者は当初ここまで挙げられていた人事制度はある一つのプロジェクトチームで実施および管理していると認識していたが誤解であった。
TABIPPO社のフラットな組織形態での運営が可能なのだ。
「フラットな組織を志向しているので権限の集中化をしないようにしています。なのでTUNAG上であたらしい制度を作ることは全員することができます。」(浦川氏)
その他にもだれでも人事施策や制度が立てることができるTABIPPO社だからこその事情がわかった。
「自分が必要とおもった制度を作って起案者が運営するということをやっているので、他社であるような、人事が作った制度はあるが、浸透されずに使われていないという状況になりにくいのかもしれませんね。そういう意味ではいまある制度を私一人で管理して普及するのは厳しいですしフラット組織だからできることですね。」(浦川氏)
「TABIPPOさんらしいところは、TUNAGのワークフローの機能は利用されていません。
申請して承認するというフローがないことがフラット型の組織なのでしょうね。
制度や施策は組織を強くしようという目的で作ることが多いのですが、実際に社員に浸透させるのがすごく難しいのです。
組織活性とエンゲージメントを自走できるプラットフォームを提供することで、強い組織づくりの手助けしたいという気持ちでTUNAGを提供しています。
カスタマーサクセス部として、多くの企業をサポートをさせていただいておりますが、TABIPPOさんは、全員で制度を作れるという珍しい企業です。」(庄司氏)
最後に、TUNAGを使って今後やっていきたいことについて伺った。
「まだ1ヶ月ですので、定点での制度の利用状況の可視化はできて、感覚的に傾向を把握しているところです。今後は3ヶ月、6ヶ月、1年などのスパンで集計をして分析をしていきたいです。組織の成長に寄与するアクションについての仮説をもって施策に落とし込んで回していくということを今後やっていきたいですね。」(浦川氏)
「旅人採用の業務の一部ではTUNAGを利用しているものの、業務での利用はまだまだ余地があります。情報のストックとは相性が良いので業務情報もTUNAGに貯めていくことで、社内文化や業務の理解についてTUNAGで完結すると組織のプラットフォームとして活用できるのかなと期待しています。」(浦川氏)
「会社のこうありたいという想いが詰まった制度をスタッフが利用することで、会社の文化がTUNAGにストックされていきます。ストックされた内容を採用・広報の一貫として発信することで採用のブランディングにも繋がりますね。
我々は今回のTABIPPO様のように、導入してくれている企業様とともに、『組織課題』を明確に特定します。その後に、具体的にどういうことをしたらエンゲージメントが高まるかという改善への「打ち手」を企画・設計し、TUNAG上で運用していきます。
さらに、利用データをもとにPDCAを回し、完全自走化までをお手伝いしております。
人事や経営企画の方々と二人三脚で強い組織づくりを進めていける
HR Tech GPでオーディエンス賞を獲得したことをきっかけに取材を申し込んだ。
他のファイナリストに比べてサービスを開始して短いなかで、どうしてオーディエンス賞を獲得できたのか。
今回のユーザー企業へ訪問するなかでその理由の一部がわかったように感じた。
クライアントの良きの相談相手であり、エンゲージメント経営を実践するパートナーとして寄り添っているということだ。
従来のHRのサービスや施策はピラミッド型組織を前提にしたものも多く、フラット型組織向けのサービスやフラット型組織での人事制度などこれからの領域だ。
TABIPPO社は組織文化の明文化へ取り組んでいる段階ではあるが、フラット型組織で前提となるが社員の「自立」や合意プロセスというのがしっかりしている印象だった。
TABIPPO社がフラット組織で運営できているのは、自分で考えて切り開いていく「旅人」が多いからであろう。
そのような自立型人材がこれからの組織には必要になるということで旅人採用というサービスも開始しているという。
エンゲージメントの領域や新しい組織づくりというのは、終わりのないものだ。
もっと気持ちよく働くヒントはどこにあるのか?と考えるヒントを得るためにも今後とも取材に取り組んでいきたい。
(編集:櫻木諒太)